№2

これで話は冒頭に戻る。どうやら私を人質に取っている男が不正をやらかしたらしいが、警察に見つかり、バイクでここまで逃げてきた。
その後、バイクが転倒で使えなくなったようだ。店の前に転倒したバイクが見える。
そして、どうにか警察を追っ払おうと、私を利用した。成る程、そうですか。……あれ、本来ここで慌てるべきなんだろうか。
冷や汗の一つも、叫び声の一つも、また怯えた顔の一つも、ポヨの変化一つも無かった。自分でも驚きだ。よく落ち着けるな、私って。
つまり、あれか。私はいつ死んでも構わないとでも感じていたのだろうか。いや、考えた事無いし、違うか。えーっと?
そんな思考を張り巡らせたとき、こめかみに痛みが走った。男の一人が私の頭に銃を突きつけていた。途端に私は顔をしかめ、男を横目で見ていた。
その時、私は一つの自論を完成させていた。「死ぬようなら、何をしてもいいか」という物だ。

そう考えた私の行動は早かった。とっさに足に勢いをつけ、振り上げた。見事に男の顔面に命中。脱出成功だった。

「――くそっ! このガキ!」

ガキ? また少年扱いでもされてるんだろうか。反論の一つしてやろうかと思った矢先、銃を向けられた。
さっきの銃声の正体はこれか。なんて考えつつ、体を硬くしてしまった。


――また、銃声が響いた。


……と思ったが、死んでない。今の銃声は、私を打ち抜いていない。外したのか?
そう思って改めて男を見ると、銃すら持っていない。それどころか、銃を手にしていた手を抑え、呻き声をあげていた。
何が起こったのだろう。しばらく思考を働かせるも、ムダだと判断した次の時、声が響いた。

「あーあー、うるさいよ君達。お店で叫ばない。他のお客さんがしかめっ面になるぞー」

かったるい声が聞こえた。後ろを振り向く。その時、真っ先に目に入ったのは、一つの銃だった。
更にその先を見る。そこにいたのは、2匹のソニックチャオだった。1匹は白い帽子を被り、眼鏡をかけていた。銃を持っている。
もう1匹は、コンビニの買い物かごを持っていた。恐らく、眼鏡のチャオが助けてくれたのだろうか。しかし、何者だろう?
と、買い物かごを持っていたチャオが男の方角へ歩き始めた。
「来るんじゃねぇ!」
男がまたも銃を構えた。スペアらしい。すぐに銃声が響く。……男の手に銃は無い。ゆっくりと後ろを振り向いた。
「叫ぶなっつったろが」
呆れた表情で眼鏡のチャオが言った。またこのチャオがやったんだろうか。狙いが良すぎる。
男が顔をしかめ、眼鏡のチャオの方に歩を進め始めた。……が、買い物かごを持ったチャオが足を引っ掛けた。
悪戯っ子か。一瞬そんな思考が脳をさまよった。
男がうつぶせに倒れようとしている所へ、買い物かごを持ったチャオが拳を作り、上に向けた。その0.3秒後。

「ぐふぉっ!」

男が間抜けな声を出した。さきほど作った拳がちょうど腹に命中したらしい。
「邪魔だよー、ジュース買うからどいてねー。ねぇ、何本ー?」
大きいサイズのボトルを握ってそう発言したチャオに、眼鏡のチャオが答えた。
「5本」
多すぎだ。こんな言葉が頭に浮かぶのを誰が文句をつけようか。多いだろう。誰もそんなに飲まない。
「あぁ、お釣りいらないから。代金」
そう言って金を出した眼鏡のチャオに、店員は慌てて袋を差し出した。それに先程のジュース(コーラらしい)を入れ、二匹のチャオが出口へ向かった。
「せんせー! コーラ5本は酒でなくとも酔っ払うと思いまーす!」
「知るか、コーラで酔った話聞いた事ねぇぞ」
「いつも酔っ払って寝てるクセにー。誤魔化すなー」
「酔ってない。飲んだ後に寝るのをそれに繋げるな」
そんなコントを残し、二匹は出口を出た。この際に、周りからざわめきが聞こえたが、あまり耳に入らなかった。何者だ?
後ろを見ると、警察に取り押さえられた(保護されたように見えるが)男がいた。気絶している。ある意味お気の毒だ。
そんな光景を眺めながら、思想の世界に浸っていたが、早く帰ってしまった。


「なにぃっ!? お前が人質だったのかっ!?」

朝っぱらから会長のうるさい声を聞く事になろうとは、思いもよらなかった。会長にはこう言う事を連絡するようになっているため、受話器を取ったのだ。

「お前が…って、どう言う事?」
「例の小説事務所の連中が解決したっていう奴だ!」

成る程、事務所絡みか。そりゃ食い付く……え?

「事務所…?」
「朝早くコンビニに出かけたんだがなぁ、ちょうどパトカーが止まってたんだよ。話を聞いたら、正に当たりでなぁ――」
ほぉ、まさか会長も早起き族だったとは。まぁそれはどうでもいい。うるさい声を拒否し、あの2匹を思い出した。成る程、あの2匹が……。
確かに普通のチャオはあんな事しない。銃。そして、素手で仕留めた。……普通じゃないな、確かに。

と、私はそこで思想を停止した。受話器から妙な笑い声が聞こえる。
「どうしましたー?」
「ふふふ、いい機会だ」
「は?」
いい機会? 何の話だろう。
「よし、ユリ! お前、早く俺の家に来い!」

言うが早く、電話を切られた。……仕方あるまい、後がうるさそうだし、早く行こうか。そうして立ち上がった時、いきなり腹の虫が音を出した。

――結局、朝食を取っていなかったではないか。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第262号
ページ番号
2 / 6
この作品について
タイトル
小説事務所 「ユリ の 始まりの日」
作者
冬木野(冬きゅん,カズ,ソニカズ)
初回掲載
週刊チャオ第262号
最終掲載
週刊チャオ第263号
連載期間
約8日