エピローグ(前編)
早朝、サイオンはアポロ達3匹と共に島の中央にある山地に向かった。
この山地は島の全面積のおよそ3分の2を占めるほどの大きさである。
その山の麓からのびる山道を通ること数時間……一行は山脈で一番高い山の頂上に辿り着いた。
頂上から見えたのは眼下に広がる巨大な森。その森には至る所に川が流れていた。
そう、チャオの森はこの山脈に囲まれた場所に隠されていたのだ。
そこには巨大な祭壇があった。
そしてアポロ達3人はサイオンを置いて、祭壇に登った。
……その瞬間、祭壇の影から何十匹のチャオが飛び出してきた。
そして振り返ったアポロ達と、そのチャオ達が一斉に叫んだ。
『ようこそ! チャオの森へ!!』
「…………ふぇ? ……何…これ……?」
「あなたの歓迎パーティーよ! 昨晩からみんなで用意していたの。」
そう、チャオの森にやって来たチャオを、皆で歓迎するのがここの習わしなのだ。
サイオンは皆に祭壇の上に運ばれ、皆に取り囲まれた。
「ねぇねぇ、ここに来るまでにいっぱい冒険してきたんだって? お話、聞かせてよ。」
「朝飯、まだなんだろ? この木の実、美味いから食って見ろよ。」
「そんなことしてないで、僕たちと一緒に遊ぼうよ!」
皆に畳みかけられるように話しかけられ、サイオンは混乱している。
サイオンは群がるチャオ達の隙間から這い出ると、アポロに向かっていった。
「ずいぶんと手荒い歓迎だな………」
「初めてここに来た奴は、みんなそう言うよ。
多分夜までかかるだろうから、頑張ってな。」
「そ、そんな~~~~~~!」
こうしてサイオンの歓迎パーティーはその日の日暮れまで続いたのだった…。
・・・・・・・・・・
翌日から、サイオンのチャオの森での生活が始まった。
エサを探さなくても、木の実なら沢山ある。
年下から同年代、年上までの様々な友達が沢山できた。
サイオンはその生活に満足していた。
チャオ森に住み始めて、数ヶ月後経ったある日の夜……サイオンは森を歩いていた。
ここ数日、心に何か引っかかる物があって、ろくに眠れないのだ。
ここの生活に不満はない………無いはずなのに……。
「この気持ち………前にも何処かで……。」
サイオンは必死に考えた。しかし、思い出せない。
心の奥底で、今の幸せに埋もれてしまったような感じだった。
彼は思い出すことを諦め、自分のねぐらに戻った。
・・・・・・・・・・
それから更に数ヶ月。チャオの森には今年初めての雪が降っていた。
しかし、まだ降り始めたばかりなので、全く積もっていない。
チャオ達は洞窟で火を焚き、外が一面の銀世界になるのを待っていた。
その中でチャオ達は雪の話題で盛り上がっていた。
「楽しみだなぁ、オラ熱帯の生まれだから雪見たことねぇんだよ。」
今年の春にやってきたというチャオが言った。
それに対抗してか、他のチャオが言う。
「ここの雪なんて、まだまだだよ。
僕が住んでいたところなんか、僕の背よりズゥ~ッと高く積もるんだよ。」
このやり取りを聞いていたサイオンの心が突然疼いた。
一瞬驚いたサイオンは、次の瞬間にはニヤリと笑っていた。
そう、今まで心に引っかかっていた物が何か、分かったのだ。
<エピローグ後編に続く>