第12話:Open Your Heart(前編)

「………死んじまったのかな……俺………」


サイオンはそう思った。
周りの音も何も聞こえない。先程銃で撃たれた痛みも既に無い。
そしてなにより彼は一寸先も見えぬ暗闇の中に立っていたのだから。


「情けねぇよな……チャオの森は目の前だってのに…。」


サイオンはだれにともなく呟いた。

もう歩く気もしない。歩いてもどうせ何もないのだから。
このまま闇に溶けて消えてしまいたい。しかし、いくら願ってもそうならないのは何故?


「………………んっ!?」


背後に何かの気配を感じた。
感じたことのない気配……いや、彼はこの気配を知っていた。
そう思った瞬間、彼は自分が記憶の中に引きずり込まれるのを感じた。

・・・・・
気が付くと、彼はステーションスクエアのチャオガーデンにいた。
しかし、何故か不安を感じる。
……彼は知っていたのだ…この後に起こることを。

その瞬間だった。
轟音と共にガーデンの壁が破壊され、大量の海水が流れ込んできたのだ。
響き渡る水音とチャオ達の悲鳴。それを縫ってサイオンの身体は流される。
海水と共にビルから外に投げ出されたサイオンは、一瞬だけ外の景色を見た。

ビルの谷間に現れた竜……怪物のようにおぞましいその姿を見、その咆吼を聞いた。
その瞬間、サイオンは水面に叩き付けられ、彼の意識は無くなった。
・・・・・

再び彼が気づいたときには、彼はまた先程の暗闇の中にいた。
そして後ろの気配に対して言った。その声は怒りに震えていた。


「思い出したよ……あんたが……あんたがあの街を…!」

『……否定はしない……。確かに私がやった……。』


その気配はそう言った。


(それほどの力があるのなら…………)


しかし、サイオンはそう言いかけて口をつぐんだ。彼の中の憎しみが声をあげる。

(奴の力を借りようと言うのか!? 俺の住んでいた町を破壊した奴に!)

しかし、彼の心がこうも語りかけてくる。

(私怨のために皆を見捨てる気なのか!?)

そんな時、サイオンの目にボンヤリと何かが映った。
小さい何かと大きい何かが争っている……。
それが次第にはっきりしてくる。

それは3匹のカオスチャオ・アポロ、セレネ、ハデスが人間達に立ち向かっているところだった。

しかし、すぐにその映像は消え去ってしまった。
サイオンは心を決めて振り返った。
そして後ろに立つ『気配』を凝視し、言った。


「俺は………………!!」

<第12話(中編)に続く>

このページについて
掲載号
週刊チャオ第46号
ページ番号
14 / 18
この作品について
タイトル
Shangli-La ~楽園を目指して~
作者
NORIMARO
初回掲載
週刊チャオ第31号
最終掲載
週刊チャオ第47号
連載期間
約3ヵ月23日