第11話:島の危機(前編)
ミズチャオがサイオンを川に引きずり込んでから数分後、彼らはやっと水面に現れた。
「ゲホッ……ケホッ………。 いきなり引きずり込むことはないだろ。」
「ありゃ? 『息を止めておけ』って言わなかったっけ?」
「…………言ってない。」
サイオンは川岸に上がり、周りを見回した。
彼が居たのは狭い草原だった。広さはチャオガーデンの標準サイズよりも一回り小さいくらいだ。
そうこうしているうちに、一匹のライトカオスが現れた。
それを見て、ミズチャオが言った。
「約束通り、連れてきたで。」
「そうか…ありがとう。 約束の『チャオの実』だ。」
「サンキュー! また何時でも頼んでくだせぇ!」
そう言って「チャオの実」を受け取るとミズチャオは水の中に消えていった。
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「私の名前はアポロ。この島に初めて棲んだチャオの内の1匹だ。」
このライトカオス・アポロは20年以上前、2匹のチャオと共にこの島にやって来た。
3匹とも出身は違うが、環境の悪化により住処を追われた者同士だった。
それから十数年後、今から4年前のある日……この島に「神」がやって来た。
「神」は姿こそ見せなかったが、高い知能を持っていた。
「神」は3匹のチャオを特別な形態に進化させ、ある力を与えた。
「それは、この島を守る、結界を張る力だ。
しかし、チャオ1匹では到底不可能。そこで僕たち3匹が協力して結界を張った」
他の2匹は、ヒーローカオスのセレネ、ダークカオスのハデス。
先程サイオンが会った2匹だ。
そして今では「チャオの森」として、身寄りのないチャオが棲む楽園となった。
そこまで話し終えると、アポロは一息ついた。
「あの海岸から君が入ってきたとなると……結界が相当弱まっているな。
今のままでは、すぐに人間達が入ってきてしまう……。」
「その結界が弱まったのは、さっきの2匹の喧嘩が原因か?」
「そうだ。 実に単純な理由なんだが………ただの縄張り争いなんだ。
そっちの方が少しだけ広いとか狭いとかで……な。
以前も多少の小競り合いはあったのだが、今回はいつもに増して激しいんだ。」
そう言うと、アポロはサイオンの手を引き、歩き出した。
どうやら草原の出口に向かっているようだ。
「今から説得に行くつもりなんだ。 一緒に来てくれないか?
ついでに先程のことも謝罪させるから。」
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サイオン達は、ヒーローカオスとダークカオスが棲む場所を目指して茂みの中を歩いていた。
30分くらい歩いた時、サイオンは明らかに「チャオではない」気配を感じた。
サイオンはさりげなくその気配の方を見た。そして彼は自分の目を疑った。
人間………しかも、どう見たって好意的ではない人間だった。
そしてその人間はサイオン達の存在に気づいたのか、持っていた銃を茂みに向けた。
その銃口は前を歩くアポロの方を向いている。しかし、アポロはそれに気づいていない。
………サイオンはとっさにアポロを突き飛ばし、自分も逃げようとした。
………………島に銃声が響き渡ったその時、サイオンは自分の腹に熱いとも痛いともつかぬ、奇妙な感覚を覚えた。
「………な………何だ? 大丈夫か、サイオン!」
そう言って振り向くアポロの目に映ったのは、地面に伏して動かなくなったサイオンの身体であった。
<第11話後編に続く>