第2話:旅立ちの夜
【前回までのあらすじ】
ある街に住む野良チャオ・サイオン。
彼は長年住んできた街を離れ、旅に出ようと決意する。
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「そろそろ………行くか。」
サイオンは夜の闇の中で呟いた。彼は今夜この街を旅立つのだ。
この街の生活が嫌だったわけではない。むしろ素晴らしかった程だ。
しかし、彼は自分自身を止めることができなかった。
『チャオの森』、それは1年ほど前、風の噂に聞いた場所だった。
訳あって飼い主と別れたチャオが暮らす森だと聞く。
この街の生活に満足しているサイオンには興味が無かった。
……無かったはずなのに、無性にその森に行きたくなった。
それは何故なのか、サイオン自身も分からない。。
それからというもの、彼は『チャオの森』に向かうための準備を整えてきた。
そして今、それを実行に移す時が来たのだ。
長年住んだ住処を後にして、サイオンは歩道に出た。
そこに黒い影が立ちはだかる。どうやら3匹の野良犬のようだ。
「兄貴……遂に行かれるのですね」
野良犬の内の1匹がサイオンに言った。
彼らはサイオンより後にこの街にやってきて、サイオンを兄と慕う犬達だった。
「止めるな……もう、決めたことだ。」
「それは分かってます、兄貴。せめてあっしらをお供に……」
野良犬達の間をすり抜けようとするサイオンの前に2匹目の犬が立った。
どうしても通さないつもりらしい。
「駄目だ。お前達には関係ないことだ。
俺の我が儘に付き合わせるわけにはいかない。」
サイオンの頑ななまでの決意を知った野良犬達は渋々道を空けた。
サイオンが通ると3匹目の野良犬が彼に言った。
「兄貴………お達者で……。」
「………お前達もな。」
住処を後にしたサイオンは例の店の前を通った。
店長一家がいつも良くしてくれる店だ。
サイオンはその店の裏、店長一家の住居の入り口に1枚の紙切れを挟んだ。
その紙切れには、こう記してあった。
『今夜、急ですが、旅に出ることになりました。
今まで良くしていただいてありがとうございました。
何もお礼ができなくて、すみません。お元気で。』と……
数分後、サイオンは街のシンボルである塔の真下にやって来た。
彼は展望台に上るエレベーターにしがみつき、塔の頂上まで登った。
展望台の上に登ったサイオンは風向きを確認して、飛んだ。
その方角に根拠があるわけではない。
しかし、サイオンは自分の勘を妙に信用できた。
まるでチャオの森が自分を呼んでいるかの如く思えたのだった。
街を飛ぶ間、サイオンは眼下の街の光を眺めていた。
その景色はまさに幻想的で、夢の世界を飛んでいるようであった。
しばらく飛ぶと光はその数を減らし、代わりに木々がまばらに見えてきた。
ここまで来れば、後は歩いた方が効率がよい。
着陸体勢に入ったサイオン。しかし、その時遙か上空から何かが落下してきた。
サイオンはそれに気づいき、とっさに避けようとしたが、相手の方が遙かに速かった。
サイオンはその落下物とモロに衝突し、もろとも地上の林に突っ込んだのだった………。
<第3話に続く>