何も繋がっていない。
 まるで、最初から何もなかったように、マッスルとこの世界の繋がりは絶たれてしまった。そしてそれは、仲間達とマッスルの繋がりが絶たれるのと同義であった。
 死体に縋ることもできない仲間達は、ただ泣きじゃくるしかなかった。
 マッスルを飲み込んだカオス・イレイザーが膨張し、仲間達に迫る。仲間達に、できることは何もなかった。
「スーマ、頼む」
「ええ」
 仲間達の後ろに、二つの影。仲間達が顔を上げて、声の方を見る。そこには、黒いマントに身を包んだカオスィヴと、対照的に青々としたスーマが立っていた。
 スーマが魔力を使う。スーマの魔法は目視で確認できない。時の神による、時の魔法。仲間達は、さっきまでマッスルが倒れていた場所から、何かが消えるのを感じた。
「カオス・イレイザーか」
 カオスィヴは膨張する光を見下すような目で見る。そして、カオス・イレイザーに魔力を注ぎ込む。すると、白い光の内側から、そこに元々あった空間が生まれていく。すぐに、白い光は空間で塗り潰された。その光景を見た神は、カオスィヴの顔を無表情に見る。
「元神にして元シャドウ。今のお前は何者でもない。そして、神の資格を持つものはお前だけではない」
 カオスィヴは手から、魔力を浮かばせる。神だけが使える創造の魔法、無限魔法。カオスィヴは無限魔法を空間の歪みに注ぎ込み、あるべき空間の形に戻した。
「何者だ」
 初めて神が口を開く。声はシャドウのものであるが、シャドウ・ザ・スピードが発した言葉ではない。
 仲間達に疑問が浮かぶ。神が把握していない存在? カオスィヴの伝説は聞いたことがあったし、実際にマッスルが会ったということも聞いていた。カオスィヴは500年も前から存在していて、その絶大な戦闘力が言い伝えられてきた。そんな圧倒的存在感を放つカオスィウが、神に認識されていなかった。
 カオスィヴが仲間達を見る。仲間達はその目から何かを汲み取ることはできなかった。
「奇しくも、光のマッスル・パワードがさっきまで倒れていたこの場所は、影のカオスレイによって影のマッスル・パワードが倒れた場所と同じであった」
 カオスィヴはそこで言葉を区切り、神を見た。神は次の言葉を待った。カオスィヴは語り続けた。
「カオス・バーストにより重傷を負った光のマッスル・パワードは、その仲間達の手によって回復が施された。そして、その回復魔法は同時に、影の世界で同じ場所に倒れている影のマッスル・パワードの傷口をも塞いだ……。回復した影のマッスル・パワードは時の神スーマによって500年前に飛ばされ、神を元に戻そうとする世界の脅威からシャドウ・ザ・スピードを守り続けた。もうわかるだろう、元神よ」
 カオスィヴは巻いていたマントを捨てた。カオスィヴの体には、かつて自らを貫いたカオスレイによる傷跡が未だ残っていた。神も、仲間達も、真実を理解した。
 神は考えていた。神の資格は、対となる世界に対となる存在を持たないこと。それ以外の者達はすべて神々によって作られ、対となる存在を持っている。そして必ず、光の存在は光の世界に、影の存在は影の世界にいる。だが、このカオスィヴは対となる光の存在を持たない上に、影の存在であるにも関わらず光の世界に存在している。対の世界に存在する単体は、ある種の完全性を持つのだ。私と同じように。
「影のマッスル・パワードが、私に何の用がある」
「お前を殺し、神の座を頂く」
「シャドウ・ザ・スピードを守り続けてきた貴様が、私を殺すのか」
「お前はシャドウではない。この世界に生きようとする生命の意思こそが、シャドウなのだ。今やお前は神の成り損ないだ」
「では、どちらが真の神に相応しいのか。証明して見せよう」
 カオスィヴは、もう一度仲間達を見た。
「ラルド、ナイツ、エイリア、ナイリア。すまなかった」
 仲間達は何も言えなかった。
「スーマ」
 スーマはカオスィヴに歩み寄った。
「私のわがままに付き合わせてしまってすまなかった。500年もそばにいてくれて、ありがとう」
 そして、長いキスをした。
 唇を離すと、カオスィヴは自らに棲まわす鬼のオーラを解放した。
「さて、元神よ」
 つづきから、だ。

このページについて
掲載日
2018年12月31日
ページ番号
4 / 6
この作品について
タイトル
シャドウの冒険 最終話
作者
ダーク
初回掲載
2018年12月31日
最終掲載
2019年1月4日
連載期間
約5日