第三章 ~半透明~ 三十六話
赤い光線が伸びていた地点へと着いたシャドウは、何をするべきか、と考えていた。何も思い浮かばず、地面から見えている機械を見下ろす。これは本当に現実なのだろうか、とシャドウは思う。瞬きをした次の瞬間に、いつもと同じように仲間たちの輪の中にいるような気がする。
「甘いな」
シャドウは独り言を漏らした。そんなはずはないのだ。これが現実だ。
そして、機械を観察する。操作すれば何かが起こるのではないか。しかし、機械には操作できるような部分がなかった。見てわかるのはマイクとスピーカー、00:00:00と表示された蛍光表示板があるということだけだ。
「マイクか」
この中で期待できるものはマイクしかない、とシャドウは思った。
「誰か聞こえていたら返事をしてくれ」
シャドウはスピーカーに耳を近づけ、返事を待つ。何も聞こえない。どこかと繋がっているときに聞こえるノイズも聞こえない。どこにも繋がっていない。
「繋がっている」
突然、スピーカーから声が聞こえた。シャドウは驚き、しばらくスピーカーを凝視した。
「こうなることはわかっていた。ここは、私がなんとかしなければならないところだ」
シャドウの前に自分と同じくらいの大きさの黒い球が現れる。
「その球を完全に消してくれ」
スピーカーからは冷静な声が続けられる。
「この球はなんだ」
シャドウは他にも聞きたいことがあったが、最初に出てきた言葉は目の前にあるものに対する疑問だった。
「この球は、この機械によって生じたモノだ。この球のせいで、世界が不安定になっている」
シャドウは球を見る。すさまじいエネルギーを肌で感じる。世界が不安定になるという言葉に、シャドウは納得した。
半端な力では完全に消すことはできないだろう、とシャドウは思った。シャドウは魔法力を体にみなぎらせる。カオス・イレイザーを使うのだ。
魔法力は白い光となって、黒い球に降り注ぐ。光が晴れると、黒い球は完全になくなっていた。
「感謝する」
「ここは一体どこなんだ」
シャドウは疑問をぶつけるが、もう返事はなかった。
そして、すぐにまたスピーカーから声が聞こえた。今度は聞き覚えのある声だった。
「おーい、誰か聞こえてんのか?」
マッスルの声だった。
「あぁ、マッスル。聞こえている」
シャドウがそういった瞬間、シャドウはマッスルの目の前にいた。
マッスルは驚いて大きく目を見開いていたが、すぐに我に返ってシャドウを迎えた。シャドウも何が起こったのかよくわからなかったが、おそらくは元の世界に戻ってこられたのだろうと思った。
「何かあったのか?」
「みんなと合流してから話す」
マッスルは、そっか、といい歩き出した。シャドウもそれを追った。