第三章 ~半透明~ 三十四話

 一番下の階までに、シャドウは何も見つけられなかった。シャドウは特に感想も持たず一番下の階を回りつづけた。この階は一番上の階と比べると、もはや似ているのは雰囲気だけで曲がり角の方向や位置はほとんど違っていた。その中に、特に異なっている部分がひとつだけあった。壁に扉があるのだ。
 その扉はところどころが変色した木でできていて、ところどころが剥がれ、その姿は弱々しかった。これで本当に扉としての役割を果たすのだろうか、とシャドウは思い、扉をよく観察した。シャドウはすぐに扉が内側に少し開いていることに気づいた。やれやれ、とシャドウは思った。
 ドアノブはなかったので、扉の開いているところに手をかけ、その扉を引いた。シャドウは扉の向こう側へと行く。そして、扉を閉めた。
 扉の向こう側は、元ルークであった。扉の方に振り返ると、そこにはもう扉はなかった。だが、シャドウにはそのことが当然であるかのように感じられた。シャドウは無表情な壁を目から開放し、ナイツたちと合流するために歩き出した。
 ナイツたちを見つけるまで、大した時間はかからなかった。シャドウが建物に入る前と同じ場所にいたからだ。当然、元ルークの住民たちもいる。シャドウもそれらの静かなチャオたちの中へと足を踏み入れ、ナイツたちのもとへと向かった。
 ナイツたちに話しかけたところでシャドウは異変に気づいた。ナイツたちが返事をしない。それどころか、シャドウを見ようともしない。三匹は建物の壁に背をつけて黙っている。ナイツが一度シャドウのほうを見たが、すぐに下を向いた。さらに、ナイリアがナイツに向かって何かを話すが、シャドウにその声は聞こえなかった。シャドウはナイツの肩を叩こうと手を伸ばすが、その手はナイツの肩には触れられなかった。手はナイツの体をすり抜け、ナイツが寄りかかっている建物に触れた。
「ばかな」
 シャドウは同じく、ナイリアとポーンにも触れようとしたが、シャドウの手にその体は認識されなかった。なんということだ。僕は彼らに認識されず、僕は視覚でしか彼らを認識できない。
 シャドウは諦めなかった。シャドウはメカチャオ地点にある一番大きな建物、つまり、先ほどまでシャドウがいた建物に大きな魔法の弾を放つ。建物は瓦礫と電気を撒き散らしながら、大きな音をたてて崩れ去った。だが、シャドウ以外の誰もそのことに気がつかなかった。
 さて、これからどうしようか、とシャドウは元ルークの中を歩いた。あの建物に入る前に歩きまわったときと、なんら変わりのない風景だ。強いていうのならば、一番大きな建物がない。あの建物を壊してしまったのは失敗だったかもしれない、とシャドウは思った。僕が認識されなくなったのは、建物に入ったあとだ。建物に入る前はまだ認識されていた。もしもこの変化に何かの因果関係があるとするのならば、建物に原因があった可能性が高い。時間の経過による変化だとするのならば建物は関係ないが、何故今なのだ。理由がない可能性もあるが、理由もなく世界から外れてしまったなんて、納得できない。
 シャドウは元ルークの出入り口についたところで足を止めた。この出入り口を最初に通ったときは、こんなことになるとは思っていなかった。柵は変わらず、元ルークを囲っていた。
 シャドウは何気なく、出入り口に貼ってある手紙を見た。自分が書いて、自分で貼ったものだ。

マッスル・パワードへ。
ここから南に向かったところで赤い光線が空に伸びている。僕たちはそちらへ向かうからルークで待っていてくれ。シャドウ・ザ・スピードより。

 あの光線の下にあった機械は、この緊急事態となんらかの関係があるのだろうか、とシャドウは思う。機械社会を望むあの声の主が、手始めにルークを機械で塗りつぶしてしまったのかもしれない。すると、あの一番大きな建物もあの声の主によって作られたもののはずだ。この考えが飽くまで可能性があるもののひとつだということはわかる。だが、可能性があるのならば、僕はあるべき姿に戻るために、それらをひとつずつでも試してやろう。そしてシャドウは、赤い光線が伸びていた地点へと向かった。

このページについて
掲載日
2010年3月2日
ページ番号
225 / 231
この作品について
タイトル
シャドウの冒険3
作者
ダーク
初回掲載
週刊チャオ第158号
最終掲載
2012年9月6日
連載期間
約7年5ヵ月14日