第三章 ~半透明~ 三十三話
ラインは混乱していた。真っ直ぐな通路がいくつも直交している。階段もあった。この建物の中は結構な高さ、あるいは深さがあるらしく、階を数えたところ三十階分もあった。一番上を三十階とすると、ラインたちは三十階から入り、下り続けて一階まで行った。だが何もなかったのでラインたちは引き返したのであった。現在は二十九階だ。二十九階にたどり着いたとき、さきほど三十階でも起こった謎の現象が起こった。正面からシャドウが向かってきて横を通り過ぎたのだ。
三十階では、シャドウはラインたちの前を歩いていた。シャドウの他にも、ナイツ、ライリア、謎のチャオがいた。謎のチャオに関しては、シャドウたちも存在に気づいていたので、脅威になるチャオではないだろう、とラインは思った。シャドウたちはラインたちが近づくとラインたちのほうを見てから走って逃げた。ラインたちは追ったが、シャドウたちの様子がおかしかったので、すぐに追うのをやめた。バウスが、もしかしたら偽者かもしれん、といった。もし偽者であったら、逃がしたのは失敗であった。そして、またシャドウと遭遇した。今度はシャドウだけだった。だが、シャドウはこちらのことを完全に無視していた。ラインはシャドウらしくない振る舞いをするシャドウに混乱していた。
ラインが混乱している原因はこれだけではなかった。そもそもこの場所がおかしいのだ。ラインたちは山を下り、バウスの家がある町、メルトについた。はじめに向かったのはバウスの家だった。バウスが自分の家に行きたがったからだ。そしてバウスの家に入ると、そこはもうこの建物の三十階であった。後ろを向いても、通路しかなかった。何故入った瞬間に気づかなかったのだろう、とラインは悔やんだ。
マッスルの様子もおかしい。ラインたちと山を下ったり走ったりしたのだが、ずっと考え込むような表情のまま顔が固定されているようだ。この通路でシャドウたちを見つけたときも例外ではなかった。それどころか、マッスルがシャドウたちの方を見ていたかどうかもラインにはわからなかった。これだけおかしいものが周りに溢れていると、ラインは自分までおかしくなったような気がした。俺は大丈夫なのだろうか。
こんなことを考えても意味がない、と思いラインは他の仲間たちとともに通路を歩き始めた。
三十階に着き、くまなく出口を探すが見つからなかった。そして、ラインたちが入ってきた——と思われる——場所についた。考えられる出口はここしかない。だが、どうやって脱出するのだろうか。
すると突然、シャドウがラインたちの目の前に現れた。
「僕の責任だ。悪かった」
シャドウがこの建物で初めて話しかけてきた、とラインが思ったと同時くらいに、ラインたちの意識が飛んだ。
ラインが目を覚ますと、そこはバウスの家のなかであった。畳が敷いてある狭い部屋で窮屈そうに仲間たちが倒れていた。気絶しているだけだろう。呼吸が安定している。今は休ませてあげよう。
通路についてラインは考えてみた。だが、説得力のある答えは出なかった。わからない、が一番まとまった答えであった。