第三章 ~半透明~ 三十話
案内をしてくれたチャオは、ポーンという名前らしい。シャドウたちは個人的な、問題と関係のない話を交えながらメカチャオが座っていた地点を見回っていた。ポーンという名前はチェスという娯楽のコマの名前です、とポーンは言った。
「私の両親はチェスが好きでした。ポーンというコマは基本的には前方にしか進めず、移動距離も小さい。しかし最後のマスまで移動すると他のどんなコマにも変身することが出来るのです。私の両親はポーンに何か心惹かれるものがあったのでしょう」
メカチャオが座っていた地点は、便宜的にメカチャオ地点と名付けられた。メカチャオ地点の正確な場所は分からない、とポーンは言ったが、メカチャオ地点の正確な地点は見つかった。メカチャオ地点は、機械で出来た建物の屋上にあった。
大体ここら辺だったかな、といってポーンが建物の前に立ち、ニュートラルノーマルタイプの小さな羽をゆっくりと羽ばたかせた。シャドウたちもそれについて行くと、屋上には小さな小屋や散らばった土があった。小屋はメカチャオ地点のすぐ近くにあったものだそうで、ここは間違いなくメカチャオ地点だった場所です、とポーンは言った。その建物は現在のルークの中でも特に大きな建物で、他の建物の屋上も見渡せた。ポーンはそこから他のメカチャオ地点を手で指した。メカチャオ地点にはすべて大きな建物があった。
ルークに座っていたメカチャオはこの機械で出来た町と関係があるのだろうか、とシャドウは思った。きっと関係あるのだろう。メカチャオは地面の中にこんな世界を作ってしまった。そして、生物だけ残して世界は上書きされた。生物たちは、別の世界の進行に気づかないということがこれほどまでに恐ろしいものだとは思っていなかっただろう。しかし、別の世界の進行など気づくわけがない。僕たちに見ることができるものはすべてこの世界のものだ。
「この建物に入りますか?」
ポーンは僕たちがいる屋上にある扉の方を向いた。扉の向こうはおそらく階段だ。階段の下を想像しようとしたところで、僕はここがメカチャオ地点であったことを思い出した。
扉を開くと案の定階段があり、そこはもう建物の中だ。階段は一階分しか降りられず、さらに下の階へと続く階段は周りにはなかった。建物の中は暗かった。だが、先は見えた。真っ直ぐな通路、直角に曲がる通路、交差点などが見える。通路は横幅と高さが同じに見える。連続した正方形のようだ。それにしても、部屋がない。しばらく歩いてもみたが、部屋は一つも見当たらなかった。
「なんか、何もないね」
ナイツが不安そうに、自分の羽を触った。何もないことに不安を感じているのは、おそらくナイツだけではない。ナイリアもやや落ち着きがない。それに比べて、ポーンは落ち着いているように見える。大したものだ、とシャドウは思いながらも、ポーンは連れてくるべきではなかったとも思った。もし戦闘が起こるような場面に出くわしでもしたら、ポーンは戦えるのだろうか。戦えたとしても、巻き込むべきではなかった。彼はただの住民なのだ。
ナイツが振り向いた。耳がいいナイツには解ったのだろう。僕も感覚的にそれを認識できた。後ろから何かが迫ってきている。ナイリアとポーンは状況が掴めずにナイツを見ている。僕はポーンを抱え、ナイツはナイリアを抱える。そして、僕たちは走り出した。