第三章 ~半透明~ 二十八話

 確かにここはルークがあった場所だ、と入り口に貼ってある自分が書いた手紙を確認して、シャドウは口に出した。入り口や、ルークの領域の輪郭を表す柵がそのまま残っていることからも、ここは確かにルークであった場所であることが解る。
 それにしても、この柵は何故こんなに低いのだろう、とシャドウは思った。大人のチャオと大して変わらない高さだ。キャプシティやカイセンタウンの柵――というよりは壁――はかなり高く、立派なものであった。
 国の概念を持っていたのはヘルゼアス大陸くらいで、他の大陸では国の概念を持っていない、とラインに聞いたことがある。町、そして所有者がいない土地が大陸を構成し、各法律は大陸によって定められているらしい。どこの法律も大して変わらないけどな、と笑いながらラインは言っていたが。そんなに投げやりで良いのだろうか。所有者のいない土地に対しては法律的にどのような規制があるのだろうか。木々が伐採されたような跡は見たことがない。やはり、木のようなものは魔法で代用できるのだろうか。チャオ星ではそうだったかもしれない。争いがないのは、殆どのものが自給できる上に土地に余裕を作ったからか、と僕は結論付けた。
ヘルゼアス大陸は、土地に余裕がなく、独立した大陸だった。加えて、ゼアスの自給率が低かったのだろう。ゼアスは荒野だらけであった。あの時のゼアスはすでに末期的だったのかもしれない。そして、他の大陸との貿易もなく、大陸内だけで解決しようとして戦争になった。実際にはカオス・ピースの介入があったが、カオス・ピースがなかったとしても危機的な状況になっていたかもしれない。前ゼアス王にもっと想像力があれば、戦争なんて起こらなかったかもしれない。
しかし、戦争をしていたことによって僕たちはヘルズの実態を知るきっかけを手に入れた。僕には何がベストかなんて解らない。だが、僕はあの時のことを良かったと思っている。今、ヘルゼアス大陸にはひとつの国しかない。この結果がすべてだ。過去があって、現在があって、未来があるのだ。
 そう考えて、僕はこの目の前にある柵について考えてみた。この柵にはどんな過去があって、今ここに立っているのだろう。そして、どんな未来を辿るのだろう。機械の町となってしまったルークを囲いながら、何を感じているのだろう。
 僕はルークを囲っていて唯一柵がない部分、入り口を通った。


 機械で出来ていると思われる建物の上には、変化する前のルークの建物が一部あった。倒壊した家や店、土がそこら中に散らばっていた。おそらく、地面の中にこの町が完成していて、それが地面を突き破って地上に出てきたのだろう、とシャドウは思った。
 意外だったのは、ルークの住民がパニックになりながらも町の一箇所に集まっていることだった。負傷者も少なく、負傷者は負傷者で一箇所に集められて簡単な処置を住民が施していた。
 そして、住民たちの中をあてもなく歩いていると、メカチャオについて教えてくれた店員のチャオを見つけた。話しかけてみると、店員のチャオも僕たちのことを覚えていた。話を聞くところ、やはり機械の町が地面を突き破って出てきたようだ。
「正直、驚いたというよりもうんざりしていますね。他の町でも問題になっているメカチャオがこの町に現れたというのに、何もしなかった町長さんたちや自分たちに。メカチャオがいるのは問題なのに、いるのが当たり前だからといって放置していたらこのざまですよ。たぶん、町民たちも危機感は私と同じように感じていたと思うのですけど、結局何もしなかった」
 彼は苦いものを噛み砕いたような表情をした。彼の気持ちは解らなくはないが、励まそうという気にはなれなかった。僕は仕方がなくうなずき、他の質問をすることにした。
「メカチャオが座っていた、という場所はどこだ?」
「ええと、町がこんなんになってしまったので正確な場所は解りませんが、大まかな場所になら案内しますよ」
 僕たちは彼の好意に甘え、案内してもらうことにした。

このページについて
掲載日
2010年1月12日
ページ番号
219 / 231
この作品について
タイトル
シャドウの冒険3
作者
ダーク
初回掲載
週刊チャオ第158号
最終掲載
2012年9月6日
連載期間
約7年5ヵ月14日