第三章 ~半透明~ 二十七話

 広くて暗いということはこれほどまで怖いのか、と仲間達の殿を務めるラルドは思った。先は見えず、ルークに向かっているのだろう、ということしか解らない。以前通った時には、早々にスーマと遭遇して、自分が自分でないような気持ちで全員が歩いていたので、殆ど気にかけることのなかったことだ。あの時、ラルドは仲間達が平静を装っていることに気付き、不自然さを感じていた。
 今、ラルドは前を歩いている仲間達にそのような不自然さを感じない。特に仲間達の意識をかき乱すような事態はなかった。だが、何かがおかしい。そうだ、マッスルが静か過ぎるんだ。
 いつもならばよく喋って退屈を紛らすような行動をするのだが、この暗い道に入ってからは静かでずっと考え込むような表情をしている。スーマの画像を見てからは、後ろを一度も振り返っていない。画像を見るまではバウスを気にしていたんだと私は思う。ちらちらバウスの方を見ていたからだ。でも、画像を見てからはもっとおかしい。不自然だ。装っているような不自然さではなくて、装いすぎない不自然さだ。特にマッスルのような性格だと。
 マッスルは良しとして、他のみんなはこの状況をどう感じているのだろう。この場所、スーマのこと、マッスルのこと。淡々と歩いているように見えるが、何を感じ、何を考えているかなんて解らない。きっと、私が考えていることもみんなには解らないだろう。私は表現していないし、みんなは私の方を見ていない。
 何を不安になっているのだろう。私達は理解し合わなければならない存在ではない。私達の目的は平和な生活にとっての脅威を排除すること。私達はこの目的を達成するための存在で、個の尊重なんてものを気にしていてはいけない。生きる意味が解らなかった私に、生きる意味を与えてくれたこの冒険。私はこの冒険に身を尽くさなければならない。私は決めたのだ。兄貴、クロア・クルが親への復讐を決めたように。
 だというのに、私は戦闘に参加できない。我慢しなくてはならない。私が戦闘に参加することは、目的の達成における障害になるかもしれないのだ。では、私は今何のために生きているのだろう。
 ラルドは溜息をつく。こんなことで不安になるなんてそれこそ意味がない。どれもこれもこの変な場所のせいだ。私は早く傷を完治させ、前線に復帰するのだ。それが私の出来ることだ。
「大丈夫?」
 エイリアが心配してくれたようだ。私の溜息を聞いて気遣ってくれたのだろう。理解を必要としない私を理解してくれようとする仲間。こんなに恵まれた環境にいる私が不安を語っていては、この環境を構成しているものに失礼だ。私は不安を語ることに意味を与えた覚えはない。
「大丈夫だよ」
 うん、大丈夫。私はいつでも大丈夫。決心した私はもう考え直す必要がない。そう考えることが、私、ラルドの生きるコツです。この世は無常だけど、意味を与えればそれなりに生きていけるんだよ。
 考えている間も足の歩みを止めなかったラルドは、これでこそ私だ、と思い歩き続けた。その間、決して仲間達も止まることはなかった。

このページについて
掲載日
2010年1月11日
ページ番号
218 / 231
この作品について
タイトル
シャドウの冒険3
作者
ダーク
初回掲載
週刊チャオ第158号
最終掲載
2012年9月6日
連載期間
約7年5ヵ月14日