第三章 ~半透明~ 二十二話
マッスルは、掠り傷があるだけで殆ど異常なしとの診断結果を医師に聞かされた。そう聞くとマッスルは寝かされていたベッドから出て、立ち上がった。そんなマッスルの様子を見て、医師も、大丈夫そうだね、と言う。掠り傷は水の回復魔法の効力が残っているので、すぐに完治するだろう、とも言った。シャドウ達は医師に礼をいい、アモルス医療センターを出た。
シャドウ達がまず向かったのは、キャプシティの町長のところだった。町長は普段どおりのマッスルを見て、安堵の表情を見せた。シャドウ達は町長に食堂へと案内され、様々な種類の木の実をご馳走された。中にはシャドウ達が知らない木の実などがあり、食事だけではなく初めての経験も出来た。加えて、殆どの木の実は美味だった。シャドウ達は沢山の木の実をすぐにたいらげた。中でもマッスルは多くの木の実を食べた。マッスルはこの場所に空腹を訴えていたので、仲間達の予想通りの結果だったわけだ。マッスルが空腹だったのは、ソニックとの戦いも一因かもしれない、とシャドウは思った。
町長の、もっと食べますか、との問いにシャドウ達は全員肯定した。やはりシャドウ達も空腹だった。
木の実を食べていると、マッスルが思いついたようにシャドウに尋ねた。
「戦った記憶は殆どないんだけど、疑問だらけだぜ、って誰か言わなかったか」
「ソニックだ」とシャドウは答える。「最後の言葉だ」
最後の言葉、という言葉に、ラインとバウスを除く仲間達は戸惑った反応を見せた。一つの大きな脅威がなくなったのは喜ばしいことだが、かつて共に行動をしたソニックの死は悲しい、という心境の表れだろう、とシャドウは思った。
「疑問だらけ?」とライン。「どういうことだ」
「僕の技のことだろう。確かに、ソニックには解らなかっただろう」
「何をしたんだ」とマッスル。
「ソニックは僕の首をつかんで、盾にしていた。マッスルが僕に攻撃できないことを見破っていたんだな。その時、消滅魔法を凝縮した閃光が、僕を貫通してソニックに当てるように放った。だが、僕には傷一つなかった。これが一つの疑問だろう。あとは、閃光を僕が使えるということも疑問だっただろう。僕が想像できるのはこのくらいだ」
「何で傷一つないの?」と当然の疑問をエイリア。
「カオス・シャドウの応用だ。カオス・シャドウは一定時間、影の空間に僕を拡散させ、その後通常空間のある座標に収縮する技だ。ソニックやダーライのカオス・シャドウは、通常空間に拡散する少し違う技だ。通常空間は様々なものが混沌化しているから、拡散に時間がかかる上に、体が広がるように消えるから拡散が解りやすい。さらに、連発すると混沌に飲み込まれる可能性がある。ソニックは、僕のカオス・シャドウも同じものだと信じて疑っていなかったようだ。僕は閃光を放った瞬間に影の空間に退避した。影の空間への移動は、まさに消えるようにしか見えないから、ソニックには僕がカオス・シャドウを使ったことすら解らなかったのだろう」
仲間達はシャドウのカオス・シャドウに関する説明をよく聞いていた。仲間内で技に関する話をすることは少ない。それに、シャドウの主力技ともいえる技の説明は興味深いのだろう。
「そんなことできる?」とラルドがエイリアに尋ねる。
「似たようなことは出来るけど、どっちかというとソニックとかのカオス・シャドウに近いかも」
エイリアの言葉にも、仲間達は感心する。エイリアは仲間達の中で飛びぬけて強い訳ではないが、魔法に関しては一番能力が高い。
「まぁ、そんなことよりさ」といったマッスルに視線が集まる。「食おうぜ」
マッスルの言葉に賛成し、仲間達は木の実を食べ始めた。マッスルを睨むエイリアを除いて。