第三章 ~半透明~ 二十一話

 キャプシティの北端部付近にあるアモルス医療センターでは、その大きな外見に見合うほどの数の患者でいっぱいだった。マール星の中でも設備は整っていて、他の大陸からアモルス医療センターを訪れる患者も少なくはない。クローゼス大陸の一角を占める大きな地方であるアモルスは、このような医療機関が優れているだけでなく、産業化が進んでいる。それによって、アモルスでは様々なものが売られており、住み着く者が多い。もっとも、物価が高いので、住み着くのは金持ちだけだ。
 住み着くのは金持ちだけだが、例外的に物品を簡単に手に入れられる者が二種類いる。一つは、窃盗などの犯罪を犯して物品を手に入れる、犯罪者と呼ばれる者と、もう一つは、犯罪者に対して何らかの処置をとるために存在する犯罪抑制者と呼ばれる者だ。犯罪抑制者は、警察や警備員、裁判官とは区別される。具体的な行動内容は、犯罪者を見つけ次第身柄を確保し警察署に連行したり、殺意を持って殺しを行おうとしたものを現場で殺したり、犯罪者を個人的に制限付きの拘束ができたりする。警察や警備員、裁判官との一番の相違点は、職業ではないということだ。社会的には、シャドウ達も犯罪抑制者に当たる。犯罪抑制者は、犯罪抑制者になろうと思わなくてもなれるのだ。さらに、犯罪抑制者には特権がある。まず、あらゆる店で物品を無料で買える。ただし、アクセサリー、玩具、必要以上に高価な食事、エトセトラは一般と同じ価格でしか買えない。必要ではないと法的に判断されたものだ。さらに特殊なことに、家が買えない。何もしないで生活されてしまう恐れがあったからだ。従って、犯罪抑制者のほとんどは冒険家だ。逆に、犯罪抑制者で家を持っている者とは、犯罪者なのだ。犯罪抑制者は判断を間違えば犯罪者にもなり得るのだ。
 シャドウ達はそんな犯罪抑制者の特権を行使して、このアモルス医療センターでサービスを受けているのだった。何故、シャドウ達が医療センターにいるのかといえば、町長の部屋で寝かせておいたマッスルに、起きる気配がなかったからだ。シャドウは、複雑な心境だった。起きないマッスルが心配なのは当然だが、起きたマッスルがあの戦闘の時のマッスルならば、かなり危険だろう。さらに、いつものマッスルがもしかしたら二度と帰ってこないかもしれないと思うと、シャドウは不安になるのだった。
 だが、マッスルはそんな心配をよそに、およそ10分後、何事もなかったかのように目を覚ました。
「あぁ、なんか疲れたし眠いな」
 そういって欠伸をするマッスルを見て、シャドウはひとまず安心だ、と一息ついた。

このページについて
掲載日
2009年11月29日
ページ番号
212 / 231
この作品について
タイトル
シャドウの冒険3
作者
ダーク
初回掲載
週刊チャオ第158号
最終掲載
2012年9月6日
連載期間
約7年5ヵ月14日