第三章 ~半透明~ 十九話

 ソニックは何が起こったのか理解できなかった。
 ソニックは仰向けに倒れている。マッスルの方へ向かって走っていたはずだった。背中に地面の感覚が感じられるのが奇妙だ。
 だが、ソニックには理解しようとしている場合ではないということが理解できた。マッスルが、倒れたソニックに向かって飛び掛ってきたのだ。ソニックはすぐさま風の魔法を使ってマッスルを吹き飛ばした。
 マッスルを吹き飛ばした後に何が起きたのかをやっと理解できた。マッスルもまた、ソニックの方へ向かって走っていたのだ。それも、ソニックやシャドウと大差ない速度で。そのマッスルがソニックを殴ったのだ。だが、直撃ではない。ソニックはほとんど反射的に顔を横に傾けたのだ。マッスルの拳が頬をかすめ、ソニックは倒れたのだった。直撃していたら、今こうしてマッスルを見ていることはなかっただろう。我ながらなかなかの反射神経だ、とソニックは思った。
 その頃、シャドウがソニックに追いつき、すぐさま槍を突き出してきた。ソニックも黒い剣を取り出して槍を弾き飛ばした。槍を弾かれて無防備になったシャドウをソニックは見逃さなかった。黒い剣に魔法力を送り、シャドウを斬りつける。だが、黒い剣はシャドウの体に弾かれていた。ソニックはすぐに解った。オーラ・バリアだ。黒い剣に送った魔法力は少なくなかったはずだが、それはオーラ・バリアの魔法力の強さを示しているのだろう。
 シャドウは――少なくてもソニックは初めて見る――魔法力で出来たような謎の槍を振りかぶって、ソニックの頭を突き刺そうとする。ソニックは何も考えられなかった。槍が頭に刺さる未来は感じられたような気がした。
 しかし、槍がソニックの頭に刺さることはなかった。シャドウは仰向けになって倒れていた。気絶しているようだ。ソニックの手から、あのヘルズ王が使っていた消滅魔法"もどき"の黒い閃光が発射されたのだ。その閃光はシャドウの頬を掠めた。本来ならシャドウの頭を直撃していたはずだったのだが、シャドウは反射的に避けようとしたようだ。まるで、さっきのマッスルと俺の攻防のようだな、とソニックは思った。
 それにしても、何故自分の手から閃光が発射されたのか、とソニックは不思議に思った。おそらく消滅魔法とは、自律することが出来なくなった時に使うことが出来るのだろう。生物はみな、経験や知識、そして本能や感性によって構成された混沌と、それをコントロールする自我を持っている。その自我を失うと、混沌だけが残り、暴走を起こす。どういう理由かは解らないが、それで消滅魔法を使う状態が整えられるのだろう。シャドウで言うなら、無心状態だ。あの大会の時、すでに消滅魔法を使えたのだろうか。だが、シャドウは通常状態でも消滅魔法を使える。それは、シャドウの自我をコントロールするレベルが高いからだろう。ヘルズ王に関しては、カオス・ピースに狂わされていた時点で混沌状態だ。そして、何よりも確信を得る原因となったのは、今の経験だ。俺は今、無心状態に近い状態になったのだろう。そして暴走して閃光が発射されたのだ。本当かどうかは解らない。カオス・イレイザーのように完璧な消滅魔法にならなかったこともまだ理解できない。だが、結果としてこうなったのだからどちらでも構わない。
 ソニックはあることに気付きマッスルの方を見る。マッスルは鬼のような形相でこちらにゆっくりと近づいてくる。完全に我を失っているように見える。が、実際はそうではないのだ。何故なら、マッスルはシャドウを一度も攻撃していないからだ。
 ならば、とソニックは気絶したシャドウの首筋をつかんでシャドウを盾にする。マッスルの進行が止まる。やはり、とソニックは思った。マッスルはまだシャドウを味方と認識するほどの自我を持っている。
 動きが止まったマッスルは隙だらけだった。ソニックは密度の濃い風の魔法をマッスルの腹に打ち込む。マッスルは倒れ、気を失う。本来なら貫通しても良いくらいの威力を持った魔法なのだが、やはりマッスルは普通ではない。
 ソニックはマッスルにとどめを刺そうと、もう一度風の魔法を放とうとする。だが、風の魔法は不発と終わった。シャドウが、シャドウの腹ごとソニックの腹を閃光で貫いたのだ。

このページについて
掲載日
2009年11月15日
ページ番号
210 / 231
この作品について
タイトル
シャドウの冒険3
作者
ダーク
初回掲載
週刊チャオ第158号
最終掲載
2012年9月6日
連載期間
約7年5ヵ月14日