第三章 ~半透明~ 十八話
ソニックは地面に叩きつけられ、意識を失いそうになる。だが、ここで意識を失えば間違いなく殺される。その意識が、ソニックの意識を強く保たせた。
起き上がるソニックに、マッスルはさらに攻撃を加えようとする。シャドウは様々な魔法を遠くから放つ。ソニックは上級の風の魔法、スピードウィンドを放った。スピードウィンドは魔法力も推進力も魔法の中では相当高いレベルの魔法だ。加えて、風の魔法は密度を薄くする度に攻撃範囲を広くすることが出来る。密度を最大限まで濃くすれば、刃物のように相手を切り裂くことも出来る。今回使ったのは、密度が薄い方だ。
マッスルは地面に腕と足を突き刺し、飛ばされまいと体を地面に密着させている。シャドウの様々な魔法はすべて空へと飛んでいった。風がなくなると、マッスルは地面をえぐりながら手足を引き抜き、再びソニックを襲おうとした。シャドウも高速でソニックの方へと接近する。ソニックは咄嗟に、カオス・シャドウを使った。カオス・シャドウは、世界と自分を混沌たる状態にしてしまう技だ。それは、もはや世界と一体化したも同然。世界のどこにでも現れることができる。果たしてソニックが現れた場所は、マッスルの背後だった。マッスルの二本の剣で斬りつける。そのままカオス・シャドウで遠ざかりたいところなのだが、カオス・シャドウは無秩序な技で、加えて魔法力を多く消費してしまうのであまり連続して使える魔法ではないのだ。
マッスルは斬りつけられながらも唸り声と共に振り向く。そして、ソニックを殴りつけようと振りかぶると、ソニックは風が切れるような音と共に消えた。高速で移動しているのだ。マッスルはソニックを見失い、唸りながら周りを見渡す。
しかし、シャドウにはソニックの姿が捕らえられていた。シャドウはソニック以上の速さでソニックの後ろを追う。ソニックも速度を上げて、互角の速さで追われる。
ソニックは剣をしまい、遠距離用の小さな魔法を乱れ撃ちする。ソニックの魔法力は相当なレベルだ。直径10センチメートル程度の小さな球体魔法でも、建物を倒壊させるほどの威力がある。シャドウはそれを最小限の動きで避けながら追う。最小限の動きをしているとはいっても、確実にソニックよりも無駄な動きが多くなる。ソニックとの距離が少しずつ広がる。加えて、シャドウが避けた魔法は地面で爆発を起こし、石の破片がシャドウを襲う。ソニックはこれをしばらく続けようと思った。マッスルもすでにかなり遠ざかった位置にいる。
と、ソニックが安心した直後、遠くから怒り狂ったような咆哮が聞こえてきた。同時に、体が数メートル宙に浮く。地面から衝撃の波。マッスルが何かをした。シャドウも宙に飛ばされ、ソニックを追うのは強制的に一時中断のようだ。だが、マッスルがいた方向から、大きな気烈破滅弾が飛んできた。これはマズい、ソニックは焦った。これが地面で爆発を起こしたら、この星の半分は消し飛ぶだろう。
ソニックは宙に浮きながらも、風の魔法の密度をやや薄めにして気烈破滅弾に向けて放った。幸い、気烈破滅弾にはあまり推進力がなく、風の魔法によって空へと飛ばされた。だが、ソニックは安心できなかった。マッスルを置いていては何をしでかすか解らない。早く倒さなければ。
ソニックは着地と同時に、マッスルの方へと走り出した。