第三章 ~半透明~ 十六話

 荒野の中に一人ソニックは佇んでいた。以前、シャドウ達が来たときと同じ場所だ。シャドウとマッスルはソニックと対峙する。ソニックは口を歪ませて笑うが、シャドウは完全な無表情だった。シャドウとは対照的に、マッスルは鬼を思わせるくらいに顔を歪ませている。闘志に燃えているという種類の言葉は当てはまらないだろう。今にもソニックに襲い掛かるのではないか、と思わせるほどの表情だ。そんな二人の表情を見て、ソニックはその異変を奇妙に思う。ソニックが口を開こうとした瞬間、やはりマッスルがソニックに襲い掛かった。ソニックは不意を突かれ、マッスルに腹を殴られた。腹を抱えてうずくまる。そして顔が下がり、顔面をマッスルに蹴飛ばされる。ソニックは数メートル飛ばされた。
 いつ移動したのか、シャドウはその飛ばされた先にいた。ソニックは身の危険を感じ、黒い剣をホールボールから取り出す。シャドウもホールボールから槍を取り出し、ソニックに向けて突く。ソニックは剣で防いで、二人から距離を取る。ここでソニックは、喋ろうとしたことを後悔した。彼らには何を言おうと無駄なのだ。
 そして、ソニックはシャドウのこの状態に見覚えがあった。シャドウは無心状態だ。無心状態とは、自律を失った状態だ。シャドウを失ったシャドウは、なすがまま、というよりは頭の混沌に支配された状態だ。だが、シャドウはソニックを倒すという目的に基づいて行動をしている。その点では、まだシャドウは完全に混沌に支配された訳ではない。マッスルがいるからだろう、とソニックは思う。仲間がいれば、目的が正しいという確証が持てるのだ。この様子を見る限りでは、シャドウとマッスル以外のヤツは来ていない。賢明な判断をしたのだろう。だから、マッスルという仲間の存在が、シャドウにとっての唯一の命綱となっているのだ。
 だが、とソニックは思う。マッスルはどうもシャドウとは全く別の状態のようだ。どう見ても、無心のような状態には見えない。完全に自律を失っている。まるで、自律を失ったことで俺を殺すことが出来るようになったのではないか、とさえ感じられる。もしそれが正しいのならば、これはマッスルの本質なのだ。
「冗談じゃない」
 ソニックは二人から離れた位置で剣を振り上げる。まったく、これではどちらが破壊者なのかわからないではないか。剣を振り下ろし、衝撃波を発生させる。この剣は魔法力増強の効果がある。衝撃波は魔法の一形態だ。この使い方では、地面をえぐるような威力があっても剣の形である意味がない。が、魔法力を加えた剣で相手を直接斬りつけると、剣の長所を活かせる上に、様々な追加効果が期待できる。リバルの手と、俺の力によって完成した剣だ。俺は気に入っている。
 そんな剣から発生した衝撃波はマッスルの拳であっさりと振り払われ、再びマッスル達が攻撃を開始する合図となってしまった。
 二人はソニックの方へと襲い掛かってくる。シャドウは槍を持って、マッスルは無防備に。もはや、ただのシャドウとマッスルだと思っていては勝てない。そう思ったソニックは、もう一本の剣をホールボールから取り出した。

このページについて
掲載日
2009年11月2日
ページ番号
207 / 231
この作品について
タイトル
シャドウの冒険3
作者
ダーク
初回掲載
週刊チャオ第158号
最終掲載
2012年9月6日
連載期間
約7年5ヵ月14日