第三章 ~半透明~ 十二話
山を越えると、遠くの方にキャプシティが見えた。ここからは舗装された道になり、特に障害もなく辿り着けるだろう。そして、オルドに会って僕達が持っている記憶の中で一番強い者、つまりあのソニックの分身に近いものを出現させる。これはある程度の実力の目安にはなるはずだ。記憶の実体化、あの能力は本物なのだ。
山を下っている途中、キャプシティに行く理由をマッスルに尋ねられたので、オルドに会うことは既に仲間達へと伝えた。仲間達の中でオルドに警戒心を持っているものはもういないようで、どちらかというとまた会えるのを楽しみにしているといった様子だ。マッスルはクロアにまた会いたいということを言っていたが、さすがにクロアはもういないだろう。僕はカオスィヴと会って色々なことを聞きたいのだが、彼ももういないだろう。カオスィヴは、確実に僕達では知りえないことを知っている。次に会った時は、何かを聞き出してみよう。
そんなことを考えながらキャプシティへと続く道を歩いていると、ふとマッスルが口を開いた。
「そういえば、ラルド。さっき、水の魔法がどうたらって言ってたよな」
突然、先程の会話の続きがやってきたのでラルドはやや驚きながらもうなずいていた。
「ラルドが倒れたとき、俺、シャドウと必死に水の魔法をかけてたんだけど、あの、なんだ。さっきの説明でいくと、俺の魔法は殆ど、というか全部無意味だったのか?」
なるほど、僕の水の魔法でマッスルの水の魔法はかき消された状態になっていたということか。確かに先程の説明が正しいのなら、魔法のレベルが高い僕の水の魔法が優先され、そうなるだろう。事実もそうだったようで、ラルドは答えにくそうにしている。そして結局、
「気持ちはいっぱいもらったから」
と苦し紛れに答えていた。マッスルもぎこちない笑顔で、そうか、などと言っていた。そして、仲間達が騒ぎながら進むといういつもの光景が見られた。
キャプシティに着いてまず向かったのは町長のいる役場だった。役場では僕達は歓迎され、町長がいる部屋へと招かれた。町長は開かれたドアの向こうにいる僕達に驚き、そして大いに喜んだ。事情を話すとオルドの店まで案内すると立ち上がった町長を、ナイツが丁寧に断ってまた座らせた。町長の話によると、オルドの店は武器屋兼鍛冶屋となったらしい。客の要望を聞くと、持ち前の能力で客の記憶から要望されたものを実体化し、それを見本に武器を作るらしい。さらに、最近はメカチャオが増えたことによって退治をしようとする旅をする者が増え、需要もあるそうだ。旅をする者といえば、何故彼らは旅をしているのだろう。メカチャオが現れる以前にも旅をする者はいたそうだ。もしかしたら、僕達と同じ理由で旅をしている者にその内会えるかも知れないな。
オルドの店はそれほど大きくはないが、綺麗な外見だった。綺麗というよりは、こざっぱりとした、といった方が正確かもしれない。自分で作ったそうだが、やはり周りの建築物と比べると無駄が少ない。装飾品は一切付いていない。だが、人気があるということは、やはり実用性は重要なのだろう。僕達の前に一人のチャオが入っていくのが見えた。
店に入ると早速、オルドが剣か何かの武器を作っているところが見られた。僕達の先に入ったチャオは注文をしただけのようで、すぐに出て行った。武器を作っているオルドはかなり集中しているようなので、しばらく眺めていた。そして、オルドが一息ついた頃にオルドは僕達に気付いた。
「シャドウ様!」
そういって狂喜したオルドをひとまず落ち着かせ、事情を話すと快く受け入れてくれた。話はスムーズに進み、このあとすぐに以前マリィとナルのコンサートがあったスタジアムへ行くことになった。