第三章 ~半透明~ 十一話
けもの道のような山道は、やはり進みづらかった。さらに、道が曲がりくねっているので歩く距離もその分長い。シャドウはそれらをあまり苦とは感じなかったが、大きな羽が木に引っ掛かったりするナイツや、体力が少ないバウスは苦労している。そして、何よりも気がかりなのはラルドだ。ラルドは黙々と歩き続けているが、閃光で貫かれた方の肩——つまり右肩——を庇っているような印象を受ける。道を塞ぐように倒れていた木を乗り越える時も、右手は木に添える程度にしか使っていなかった。
「おい、ラルド」
突然、そう声をかけたのはマッスルだった。シャドウは歩きをとめ、ラルドの方を見る。仲間達もそれに倣った。
「肩、痛いんじゃないのか?」
マッスルのその言葉に、ラルドは自分の肩に目を向ける。そして、少し時間を置いてから答えた。
「少しね」
シャドウとマッスル以外の仲間達はそれを聞いて驚いている。気付いていなかったようだ。悲しいような顔をしたエイリアがラルドに近づいて回復を試みようとするが、ラルドはそれを止めた。驚いたエイリアに、ラルドは諭すように言う。
「水の回復魔法は、細胞と細胞を仮に繋げあわせた上で、細胞の回復を促進する魔法。魔法のレベルが高ければ高いほど回復は速くなって、魔法持続時間も長くなる。今もあの時かけてくれたエイリアの水の魔法はまだ持続してる。だから、今魔法をかけても回復は速くならないんだよ」
エイリアは何も言えなくなってしまったようだ。それでも何かをしようという気持ちが挙動となって表れている。ラルドもそれが解っているようで、言葉を付け足した。
「ここまで回復できたのはエイリアのお陰なんだからね。もう少し時間が経てばもう治るよ。ありがとね」
それでもエイリアは、自分の未熟さを責めるかのように、でも、といって黙ってしまった。ラルドはその後もエイリアを励ましていたが、しばらくして、マッスルが口を開いたことによって話は変わった。
「消滅魔法っていうのはそういうもんなんだろ。それで、ラルド。これからどうするんだ?」
ラルドは、意味がよく分からない、といったような顔をした。そして、案の定こう言った。
「どういうこと?」
やはり、とシャドウは思った。ラルドは意味が分かっていてしらばっくれているのだ。ラルドはこの後も戦おうとしている。だが、このあとラルドを戦わせるわけにはいかない。
「解っているだろう、ラルド」
シャドウが言うと、ラルドはしばらく黙ってから言った。
「私はできれば戦いたい」
やはり解っていたのだ。だが、ラルドは戦うことで仲間達に迷惑をかけることも解っている。できれば、という言葉がこちらに選択の余地を与えている。
「次はキャプシティで休んでいてくれないか」
シャドウがそういうと、ラルドはしぶしぶうなずいた。しばらくしてから、ラルドは付け加えるように言った。
「しばらく治らなかったらどうするの?」
「治るまで戦闘には加わらない方が良いだろう」
ラルドはシャドウに即答され、また黙ってうなずいた。そして、シャドウ達はまた歩みを進め始めた。