第一章~飛翔と暗躍~2
別に俺たちに仮装趣味があるわけではない。
かといって何かの罰ゲームというわけでもない。
しつこいようだがハロウィンでもない。
ではなぜカボチャなんか被っているのか?
それは俺たちが所属する組織、「被り物団」の決まり事でね。
SHADOWING 第一章~飛翔と暗躍~2
「無愛想な本の虫と大食らいの馬鹿」
俺たちが属する組織「被り物団」
その名の通り、任務中は被り物を被ることが義務づけられている。
俺たち二人は入団から間もない。
まだ下から2番目のランク、「カボチャ」だ。
あ、そうだ。
本部に報告しねーとな。
俺は懐から無線機のようなものを取り出した。
これは本部への連絡用通信機。通称「TM」
これがあればいつでも本部への連絡をすることができる。
早速ボタンをプッシュする。
「こちら本部、現状を報告せよ。」
淡々とした声が通ってくる。
とにかく早く報告をすませねえとな。
「団員NO.16421 カボチャランク ユリカゲ。
クレナイ地方 エリア17 ユウナギシティのパトロール中、商店街にてナイフを所持した不審なチャオ一名を発見。
あるチャオを襲おうとしていたと思われるため拘束から逮捕に至る。
時刻17時47分、地域保安課の警官に引き渡し完了。」
「標的となっていたチャオは見つかったのか。」
「拘束のための戦闘の際現場を立ち去ったと思われる。」
「了解。報告後苦労。引き続きパトロールを続けてくれ給え。」
「了解。」
TMから通信が途絶えた証の プツリ と言う音が聞こえた。
懐にTMをしまいため息をつく。
「ふう・・・」
「よお~ユリカゲ、報告終わった?」
如何にも気の抜けた声で俺の名前を呼んだNFFのチャオがアスカナ。
俺の相棒である。
非常に馬鹿で思考回路が理解できねえが、素直に俺の言うことを理解してくれるのでやりやすい。
間の抜けた発言も長いつきあいだからもう慣れた。
とにかくパトロールを終わらせて帰ろう。
俺達はさり気なく人ごみから抜け、路地裏でカボチャを脱いだ。
さ、パトロールに戻ろう。
アスカナの腕を強引に引っ張り、商店街へと戻った。
その後も歩いていると、ある店にたくさんのチャオが集っていることに気付いた。
同時にアスカナのテンションも跳ね上がった。
「食いモンのにおいっ!」
目をぎらつかせて辺りを見回すアスカナ。
うるせえな、もう。
アスカナは痺れを切らしたのか走り出していった。
今、パトロール中だぞ、コラ。
偶然にも妙に活気付いている店とアスカナが走り出していった方向が一致していた。
何かフードファイトでもやってるんだろうか。
とにかく行ってみよう。
何か事件かもしれないしな。
店の前にたどり着き、人ごみを掻き分けて店内に入っていった。
するとそこには物凄い勢いでラーメンをかきこむアスカナが居た。
机の上には大ぶりのラーメンの器が2、3転がっていた。
隣には同程度の勢いでラーメンを口に押し込むNSPのチャオが居た。
さらにその隣にはこの店の店主だろうか。
興奮した顔つきで二人の食いっぷりに見入っている。
さらに実況までしているのだろうか。
「さ~あとうとうチャレンジャーアスカナが4杯目に突入したぁ!ここまでの経過タイムは2分42秒!
一方チャンピオンも威厳を見せ3杯目も残りスープだけ!
どう転ぶか分からないいぃっ!」
それから25分少々経過したとき、机の上に相も変わらないペースでラーメンをかきこむアスカナが居た。
今から数分前、チャンピオンは青い顔してトイレに駆け込んでいった。
勝敗は目に見えている。
しかしアスカナは食うのをやめない。たぶんラーメンが食いたいだけだろう。
それから少しして、アスカナの手には賞金の入った封筒が握られていた。
「イェ~~イ、大勝利ィ!あら、またそんなに本買ったのかよ!」
アスカナが俺の傍らにある本の束に目を向けた。その口にはなるとやらメンマやらが張り付いている。
「いいから口を拭け、新チャンピオン。」
俺はさっきまで読んでいた本を閉じ、本の束に重ねた。
「兄ちゃんすげえな。この本の量を20分足らずで読んじまったのかよ。」
見物人の一人が声をかけてきた。
まあ確かに俺の読むペースは人より速いかもしんねえが、そこまでか?
まあいいや。
おれは口をゴシゴシ拭いているアスカナに声をかけた。
「アスカナ。帰るぞ。」
「はいはい。」
俺たちは夕日の暮れなずむ商店街を後にした。