第一章~飛翔と暗躍~1
いつのことだろうか。
この世界に A−LIFE 「CHAO」が生まれたのは・・・
そして平和だったこの世界に「悪」が生まれ始めたのは・・・
SHADWING 第一章~飛翔と暗躍~1
「夕日と街とハロウィンと」
真っ赤な夕日に照らされたささやかな商店街に、活気づいているチャオたちが往来していた。
路地裏にはコンポストや破れかけた段ボールが積み重ねられている。
その陰に正気ままならぬ目つきで一人のチャオがいるのを俺は見逃さなかった。
いや、見逃せなかった、か。
その胸の前にぎらついたナイフがかざされていたからだ。
薄暗い路地裏からも光を反射しきらめくその刃の先端は、ある一人のチャオをとらえていた。
飛び出すタイミングを見計らっているのだろうか、それとも正面にそのチャオが歩いてくるのを待っているのだろうか。
何にせよ、あのチャオを襲おうとしているのは目に見えていた。
おれは能天気な顔で俺の隣を歩いているチャオに目を向けた。
あちこちにある食料品店に目を振り回されている。
ため息をつきながらも横からその腕を小突く。
「おい。アスカナ。ちょっと来い。」
そいつの腕を引っ張り別の路地裏に入る。
「ちょっ、なんだよ!ユリカ・・」
大声を上げそうなそいつの口をあわてて押さえる。
もうちょっと遠い路地裏に入ればよかった。
そんな自責の念を感じながらもアスカナに今見たことを説明する。
「へえ、わかった。取り押さえるぞ。「アレ」もってるか?」
おとなしく事を理解した馬鹿に答える。
「当たり前だろ。おまえじゃあるまいし。」
即答と同時にアスカナが云う「アレ」を取り出す。
アスカナは早くも被っている。
「アレ」とは何か?「カボチャ」である。
「かぼちゃ」だか「カボチャ」だか「南瓜」だか。表記がわからん。
とりあえず真ん中のカタカナでいこう。
んで、それを俺も被る。
なんだか口がギザギザになってる気がする。目もより三角に近づいた気がする。
ちなみに、今日は10月31日ではない。
そんな仮装気分満載のふざけた格好で、先ほどの鬼気迫ったチャオの背後に回る。
軽いアスカナのボケのおかげで時間を食ってしまったが、幸いナイフの標的となっているチャオが店で買い物をしたようなのでまだ事件は起こっていない。
そこに小さめの紙袋を抱えた標的のチャオが店から出てきた。
ナイフを握った肩がさらに強張るのが後ろからでもわかる。
小声でアスカナに合図を送る。
「GO」と。
カボチャ頭二人組がナイフを持ったチャオに突進した。
そのチャオが急に振り返る。
目を見開いて叫んだ。
「カ、カボチャァ!?」
当然の反応である。
反論したいことが幾つも脳裏に浮かんでくるが、
そんな暇はない。
間髪入れずに驚いているチャオの懐に潜り込む。
さらに組んだ両手の下からナイフの柄を殴り飛ばすと、凶刃が乾いた金属音をあげながら空高く舞った。
そのチャオは目を丸くしながらも後ろに跳び両手でファイティングポーズをとる。
しかしそのチャオは気づいていなかった。
上から一人の馬鹿が落下してきていることに。
「だあありゃああああっ!」
アスカナが空中で跳び蹴りの姿勢をとる。
すると、アスカナが構えた右足がチャオのポヨと頭の間を通過する。
予想していたより打撃が遅れたが、アスカナのケツがそのチャオの脳天にクリティカル・ヒットした。
これが格闘ゲームならボーナスが入っているだろうと思うくらいいいあたりだった。
アスカナのケツに潰されているそのチャオに、俺は静かに手を合わせた。
騒ぎに気づいた民衆がにわかに集まり始めた。
近くの交番から来たであろう警官に、事のいきさつを説明する。
標的となっていたチャオの姿は見えなかった。
そこで俺たちがくすくすと笑われているのに気がついた。
最初はなぜか見当もつかなかったが、次の警官さんの言葉で理解できた。
「ところで、なぜカボチャを被って・・・?」
俺とアスカナは、カボチャを被っているのをすっかり忘れていた。