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動き出す。
胸と胸と頭。それぞれを貫いたはずの銃弾はそこには無い。空気を圧縮したものを飛ばしているのだろうか。
よくは分からないが、とにかく撃ちぬいたのである。
動き出したのを確認した直後、男がチャオに銃を渡す。弾も込められている。
すかさずチャオが車の下を通して、地面と水平になるように撃つ。
急所を打ち抜かれた男のせいで、その死体を押し、そして踏みバランスを崩してしまう。
前が崩れたその瞬間、黒い線が表れると同時に消える。そして、発砲をする。
"感情の無い世界"へと入りこむ。
「正直驚いた。簡単に入りこむことができた」
男が安心する。だが、その安心している様子は一変した。
「どうしたんだ?」
俺が聞くと、男は怯えながら答える。
「俺の目の前に銃弾がたくさんある。散弾だ。逃げられない」
良く目を凝らしてみると、確かにある。
散弾って、あの散弾か?一瞬にして無数の穴を開けるくらいの威力を持っているものもある。
警官の中を確認してみると、確かに大きな散弾銃を持っている警官がいた。
既に一発放った後。
「助けてくれ、世界が終わると同時にこの弾は俺を襲うことになっている。なんとかしてくれ」
声が震えながらも男は訴えていた。
「駄目だ。詰めが甘かったんだ。目の前を追いすぎた。逆にお前は詰まれていたんだ。
天国と地獄があるとしたら、お前は多分地獄だ。オレも地獄へ行けたら行きたいが、そうも行かない。
死ねないんだからな。助ける方法は無いだろう。物体は撃てないんだ」
チャオはそう言うと、散弾銃を持っている男の下へ行き、胸に撃ちこんだ。
だが、胸をわずかにそれる。
「今は生だ。本当にどうしようもない。足を撃って体勢を崩すこともできるが、散弾はどちらかといえば下向きに撃たれている。
終わりだ。すまなかった」
男はその場に崩れ、黙り込んだ。
もう死ぬと分かっている人の心境とはどんなものなのだろう。
想像するだけで気分が悪くなる。
男は俺の肩を揺さぶる。
「お前は何か俺を助ける方法は思いつかねぇのかよぉぉぉ」
無気力。受け入れることができないのか。これを想定してチャオに肩入れしたんじゃないのか。
ゆっくり首を振ると、男は泣き叫んだ。
「終わった。所詮は浅はかな考えなんだ。欲しい物を欲するのはいいが、それが認められていない国であれば別の話。
どう考えても破滅だよ。もう一回撃たれる可能性がある。わんさかいるもんな。オレもお前も、終わりだ」
そのチャオの宣告と同時に、二発を警官の山にぶち込む。
世界が変わる。同時に、血しぶきが舞い上がる。
無残な姿に変わり果てた男を見ると、俺は両手を上に上げた。
すかさず警官が飛び込み、俺の手首に手錠をかけ、連行していった。チャオは逃げ切ったのだろう。
車の下を通れば楽に逃げられるもんな。下が通れなくても、間がある。
どう見ても俺と男にしか視線は集まらない。じゃあな、惨事。