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当然のように容疑を否定し、銃と弾のことなどを包み隠さず喋った。
現場の見つかりにくい場所にまで滑っていた銃と弾を発見し、俺の言っていることが認められた。
そして、難なく無罪になったのである。
チャオが持っていたはずなのだが、必要ないわけが無い。俺を助けるために置いていったんだ。
台風は既に去っていた空を見上げて、今日のことを思い出す。
昨日から、まさに台風のように繰り広げられた、惨事。あのチャオはどこへ?
銃のこともある。現場に戻る。
車は駐車場にあるので、歩きで向かうことになる。あまり距離は離れていない。
やっとのことで現場に着くと、捜査が始まっていた。
思えば、男と警官三人が死んでいる。病院の中では看護婦と男が死んでいる。
散弾を放った警官は軽傷、でもないか?
周りを見渡すと、目に反射した光が移る。眩みながらも、その方向を見た。
病院の入り口に見えるのはあのチャオだった。鏡を持っている。犯人だ。
快晴とも言える空の下を、チャオの元へ走っていく。
開口一番。
「ありがとう。お前のお陰で俺は釈放された。感謝してるよ」
チャオは無表情のまま答える。
「結局、オレは何も変わらない。死ねないまま、ここを歩き回るだけだ」
思い出した。このチャオの末路。ライトカオスという種が、なぜ存在しているかを。
「既にオレは誰の記憶にも残っていない。ただ、死んだという記録だけ残っている。
この外見からガーデンに入ることだって困難だ。いっそのこと、この世に混乱だけを残して行きたかった」
なだめるように答える。
「逆に考えればいい。これから、数え切れないほどの善意が自分を覆いつくし、他人をも覆いつくすんだって」
だが、チャオはそんなことはどうでもいいとの表情で顔を背ける。
「見返りが無い」
そのまんまだが、深い言葉が俺の頭に刻み込まれる。
見返りが無い。見返り。不死の状態になって苦しんでいるのに、その見返りが無い。
善意を行ったって苦痛しかない。不死だからこそ言えること。
「生きてるんじゃない。死んでいるのに動いているんだ。既にオレは死人だ。
虐げられたい。早く、寿命を迎えたい」
初めて、このチャオが悲しげな表情をする。
それが発見だった。
「感情、あるじゃないか」
その言葉を聞いた瞬間、チャオがまゆに包まれる。
白みがかっている。もうチャオを触ることが出来ないほど、厚くなっている。
「分かるか?チャオは、愛されて生きていくんだ。誰にも思い出されることの無いチャオはこの世にいないんだ。

オレを除いての言葉だけどな」

「おい!待て!逃げるなよ!!」
俺はまゆを叩く。これでいいはずなのに、違う。何かが違う。
「二回殺してライトカオスの出来上がりだ。おかしいだろ?まるで道具みたいだ。
そして、オレは思い出した。この世の全てがオレにとってマイナスだ。
自然も、文化も、人間も」
少しずつ見えなくなっていくチャオを、俺はいつまでも見ていたかった。
「また会えたらいいな。今度は普通のチャオで。寿命があるチャオで。
あの暗い部屋も、何もかもを忘れた状態で、お前だけを思い出していたい」
その言葉を最後に、まゆは完全に白くなる。
泣き崩れた。こいつにとっては、不死でよかったんだ。
助けてくれる、環境を待ってたんだ。どっちでも良かったなら、俺の好きにさせてくれ。
勝手だと思われていい。強引に、生かしてやりたかった。
チャオの先にライトカオスがあるように、人間の先には深い悲しみと、同等の何かがある。
人間を二回殺せば?その疑問をあの男も持っていたのかもしれない。
生物とは何なのか。何のために生きているのか。
気がつけば、まゆは無い。卵も無い。虐げられて、あのチャオは消えていった。

晴れ晴れとした空に小さく浮かんでいる雲が、やけに黒く見えた。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第220号
ページ番号
10 / 10
この作品について
タイトル
「生命への冒涜を求めて」
作者
Sachet.A
初回掲載
週刊チャオ第220号