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背中を襲えるが、間違いなく勝てない。こんな目に合わせたのも全部あの男。
手元に武器なんて無い。しかも、気付けば俺は手に汗を握り、情けなく壁に寄りかかっている。
駄目だ、恐怖を乗り越えることができるかどうかさえわからない。俺は殺人なんてしたくない。
けれども、何らかの形でこの縁を切りたい。早速通報をしている人がいる。後は任せてもいい。
その時だ。急に戻ってきた。通報している人を見て、静かに言う。
「駄目だな、見てもらうためにもこれは必要だ」
そう言って、入り口に向かって一発撃つ。病室はとんでもなくうるさい。
騒ぎを聞いて駆けつけた看護婦が立ち尽くす。目の前の男は銃を持っている。
そういえば、わざわざ騒ぎになるようにこの病室に現れたこの男。
捕まりたいのか、台風の風と雨の音で紛らわせたいのか、よくは分からないが計画的ではない。
焦りすら感じさせる。一体どうしたというのか。
そんなことを考えると、入り口から男に一直線に伸び、突き抜けている黒い線が現れる。
これはあの弾か?
「やめろ」
力なく言う俺の言葉は、騒ぎになっている病室では意味が無い。誰にも届くことも無く、かき消される。
男は線に銃を置き、線を消す。補充完了か?駄目だ、それにやられている。
今度は死ぬのかとさえ思い、目の前が少々暗くなりながら、力なくその場に座り込む。
やってしまった。弾を放った。思わず目をつぶった。開いたら終わりなんだ。
開いてみたが、開いても何も変化が無い。何も変わりが無いが、音がかき消されている。
不自然なまでに、患者の動きが止まっている。
一瞬にして三発撃ちこまれ、気絶をした現象。一瞬。一瞬にして、銃弾を撃ちこめる。
逆だ。時間の流れがこんなにもゆっくりだからこそ、銃弾を撃ちこめる。
通報をしている患者に一発放つ。弾が空中に浮いている!?
少しずつ近づいていく。その様はロボットダンスのようで、カクカクしている。
少し進めば少し止まるし、少し止まったら少し進む。それの繰り返し。
患者にたどり着くと、胸の前で弾は止まる。それを見て、患者に駆け寄り、移動させる。
移動させたのは患者の方だ。そりゃあそうだろう。だが、弾は胸にくっついている。
取ろうとしても取れない。剥がれない。元々からだの一部であったかのように、一体化している。
その様子を見ながら、男は看護婦に一発放つ。
これも同じように、時々止まりながらも弾は看護婦へとくっつく。接着している以上は、剥がれない。
痛みで剥がれないのもある。別に、一体化するくらいならいいもんだと思ったがそうも行かない。
「やはり動けるんだな。これが不思議な現象。よく分からないが、特殊な銃と弾だ」
男が俺に話しかけながらも、通報している患者の喉に撃ち込む。
喉に接着したところで、一気に時間の流れが速くなる。
あの銃弾が撃ち抜いている。これが俺を攻撃した現象。なんなんだこれは?
「早く着替えるんだ。この様子を見られている以上、お前も同罪だ」
納得して、保身のために素早く着替える。そして、男と一緒に廊下を走りぬけ、エレベーターへ。
だが、待ってもこの階に来ない。
「ここは駄目だ。階段から行く」
俺の体に撃ちこんで、この病院にぶち込んだのはお前だろ、お前。
だが、不思議と痛みは消えていた。死罪になるよりはマシだと頭の中で意識を操作したのだろうか。
大抵、施設の階段には何階であるか、との表示が壁に示されている。
ここも例外ではない。不思議なのはそこだ。地下まで降りている。
地下には駐車場があり、そこに車が多数並んでいた。
恐らく、昨日の夜辺りに突然台風の知らせが入ったのだろう。表に出すと危ないからここに移したと考えられる。
元からあったとも考えられるが、恐らく前者。
車と車の間を縫うようにして歩いたところで、一匹のチャオがこちらを見て座っていた。このチャオはまさか
「さて、これが終わればお前を解放する。このチャオの心を開いて欲しい。
ちょっとした事情があって感情が潰れている。どんなことがあっても死なないんだ」
死なない?そりゃそうだろう。俺が知っている限りじゃ、このチャオは不死身とまで言われている。
もしかして、感情が潰れているから死なないのか?虐げられているという自覚が無ければ死なないだろう。
このライトカオスは。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第220号
ページ番号
5 / 10
この作品について
タイトル
「生命への冒涜を求めて」
作者
Sachet.A
初回掲載
週刊チャオ第220号