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何も恐れず、銃という未開の道具に対しても恐怖心をあらわにしない者を探していた。
特に、理由は無い。自分の人生に、何も目標が無かったからやり始めたことだ。
道端に捨てられていたというよりは、自分に歩み寄る存在を助けたかったからでもある。
眺めを見たくなり、そこら辺にあった共同住宅の駐車場から屋上へとエレベーターで向かった。
体に見につけていた三丁の銃の一丁を、ここから見える海へと向け、弾丸を放つ。
当然、何にも当たらず消えていく。空気の中で失速し、地面に落ちるのだろうか。
夕日が美しかった。何分も見とれていた。
しばらくし、目的を思い出してエレベーターに向かう。
さすがに部屋に入り込むわけにもいかないので、駐車場まで向かう。
エレベーターに乗り込もうとする人間がいたらそれを標的にしようと、扉に向かって銃を構える。
駐車場の階までたどり着き、扉が開く。
ちょうど、帰宅だか分からないが社会人のような風格をしている人間が立っている。
右側に歩き、回避しようとしたところを銃弾で牽制する。
「お前、何をしてる?」
そのまま、銃を使い外に歩かせる。距離を取り、銃を渡す。
決闘の説明は早口でも言えるまでに、しつこくしつこく繰り返していた。練習はしていないのだが。
相手の声を聞き、動揺をしないようにあの男の声を判断へと至らせないようにしているのも努力の成果だ。
俺の放ったあの弾丸。それが線を描く。しばらく様子を見て、銃を線に重ねる。
「お前の負けだ。猶予は切れた」
そして、銃に込めなおす。勢い良く銃に入った弾を、相手に向かって撃つ。
その瞬間だ。"感情が無い世界"へと移行する。
よくは分からないが、突然身に付いた不思議な現象。この銃と弾が何かのきっかけなんだろう。
一回撃ち、それを込めなおす。そして、もう一度撃つ。
すると、元の世界の動きが止まる。車も、生物も、雲も。血の流れさえも、全てが止まる。
相手に向かって、俺は三発撃ちこむ。目の前で弾は止まる。宙に浮いた形で。
今だけは見ておきたい。逃げるのは後でもいい。
勢い良く飛んでいった弾は、少しずつ進んでいく。
その際、俺から放射線状に景色が変わる。俺から何cmか先までの"元の世界"が動き、数秒したらそこから何cmか先までの"元の世界"が動く。
数字をおいて言うならばだ。0cmの俺から上下左右5cm先までの、俺を中心とした球の中の何もかもが活動を再開する。
だが、数秒で止まる。そして、上下左右5cmから更に上下左右10cmまで広がり、先ほど動いた0cmから5cmまでの、上下左右10cmの球の中範囲以外が動く。連鎖していくのだ。俺が放った銃弾三発が当たれば、"感情が無い世界"は"元の世界"に吸い込まれる。
ただ、"感情の無い世界"で行った発砲→着弾だけが"元の世界"に結果として残り、そのほかの動いた物はこの現象の発動前に戻る。
つまり、俺だけが動けるこの"感情の無い世界"は相手にダメージを与えるのに最適である。
この世界に入り込み、相手を蛸殴りにすることができるならそれでいい。
だが、銃弾三発しか攻撃方法が許されてはいない。
殴ろうとすると、弾かれるのだ。
空のはずの銃から発射される三発の弾は、数秒おきに少しずつ動く。
気味が悪いが、これだけの距離を離れていても威力は0距離で発射したものと同等。
先ほどの誰にでも見える状態で発砲した弾と同じように、空気抵抗がまったく無いものとして扱われる。
そして、弾は相手に着弾する。そこで、世界は元に戻るのだ。
そのままあの男は意識を失う。急所に当てはしない。痛みが強烈なのだろうか。
急所に当ててしまったと言うことなら申し訳ない。だが、急所に当てた覚えは無い。痛みでの気絶だ。
"感情の無い世界"の発動前の位置に戻るので、そこから大急ぎで立ち去る。
付近の住民がそんな俺を見て、急いで中に入り込む。
通報されるだろう。身を隠すとする。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第220号
ページ番号
3 / 10
この作品について
タイトル
「生命への冒涜を求めて」
作者
Sachet.A
初回掲載
週刊チャオ第220号