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「取った瞬間始まるならば、俺が不利じゃないか。まず俺が持ち、そっちが拾う形にした方が早い」
咄嗟に出た俺の判断。男は黙って地面に置く。それを見て、拾おうとするが少し待つ。
あの姿勢。同時撃ちとも思える、あの姿勢。かがんでいるのだ。
銃にいつでも手が届く。結構柔らかそうだ。
少し待ち、直立の姿勢にゆっくり戻ったところで急いで俺が取る。
こうなったら、急所以外を狙って逃げる。無傷のまま帰る。いや、どこかへ逃げる。
瞬間、あっちが取り俺よりも早く銃弾を飛ばす。
突然の出来事な上に、相手の速さに俺は戸惑う。撃てずに、右に転がった。
だが、弾丸は確かに俺の体を貫いて向こう側に飛んだ。なのに、俺の体は傷が一つも付いていない。
服を少しめくり、見てみたが何も無い。
錯覚だろうか。しばらくして、男が口を開く。
「この銃で発射された、あの弾は空気抵抗を受けない。それに加えて、加速していく弾だ。
不思議なことに、何にも当たらず少しも軌道を変えることなくこの場所に戻ってくる」
呆気に取られた。これは常識を覆している。
ありえなさ過ぎるが、俺に当たったのに当たらなかった現象には説明ができない。
科学とか、そっちには頭が働かない。不思議すぎる。
ボーっとしながらも、男の方に銃口を向ける。
だが、撃てない。駄目だ。俺は何も出せない。
そこで気付いた。左に、黒い線がある。空中に浮かぶ、黒い線。
線とは言うが、大分幅がある。触っても何も反応が無い。痛くも痒くもないし、その線自体にも反応が無い。
「お前の負けだ。猶予は切れた」
男がそういうと、銃をその線に重ねるようにして動かした。何かの音がして、黒い線が消えた。
男がこっちに銃口を向ける。慌てて俺は銃弾を放った。
男も発砲する。次の瞬間だ。俺は病院にいた。瞬きほどの一瞬だった。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第220号
ページ番号
2 / 10
この作品について
タイトル
「生命への冒涜を求めて」
作者
Sachet.A
初回掲載
週刊チャオ第220号