2
「で、どうしましょう、女の子は。捕らえますか?」
そう言いつつ、青年はモニターに女の子を映し出す。
これは、妄想の産物を被害を出すことなく確保するための部隊がカメラで撮っている映像である。
「そうね。犯罪に巻き込まれないうちに保護してください。私が引き取ります」
「まじですか」
「まじです。だってかわいいじゃないですか。青い髪ですよ、青い髪。流石妄想の産物ですね。超可愛い」
彼女はモニターに映し出された女の子を指差しながら言う。
青年はため息をつく。
どう返事をすればいいのだろう。
ただただ脳みそを苦しめるだけであった。
「ヘルメットはないですか?」
「はい?」
「ヘルメット。小学生が被るやつ。あれ被せたらスーパー可愛いだろうなあ。スーパー可愛い人。それも3くらい」
「わけがわかりません」
「正式に私の養子にする手配を。あ、結婚でもいいですよ」
「結婚は流石に無理です。色々な方向から考えて」
「ふっふっふ、甘いですね。ブルータス」
彼女は腕を組んでくっくっくっ、と笑う。
どこの悪役だろう。
そう青年は思った。
事実、少し道を踏み外したら悪人になってしまいかねない。
「年齢が決められていなければ、18歳以上である可能性だってあります。しかも、もしかしたら男の子である可能性だって捨てきれない。そういうことなのですよ」
「そういう危険な発言はやめてください」
「はあ、危険ですか」
と、このタイミングでピピピーと何かが鳴った。
また何かが時空の歪から出てきたようである。
とりあえずテンポが良くなりそうなところで何か起こしておけばいいや、ということである。(それを時に大人の事情と言う)
「今度はどんな子供?」
「チャオです」
「なんだ」
「とりあえず捕獲しておきます」
彼女は既に、チャオの事などどうでもよくなっていた。
そして、研究所にとって彼女は結構どうでもよくなってきていた。
そのことは、幼女のことを妄想して鼻から赤い液体を出している彼女を多くの者が白い目で見ていることからも明らかであった。
チャオガーデン。
捕獲されたチャオはここに送られる。
普通のチャオガーデンは8匹までしかチャオが入らないが、ここは特別に10匹まで入る。
それでも研究するところにしては少ないのではないか、と思う人もいるかもしれない。
だがしかし、大丈夫なのである。
なぜならば、時空の歪から出てくるチャオは大抵危険な存在であることが発覚して処分されるからである。
あと、遊んでいたら事故でたまに死んじゃう。
「今日は処分用にこんなの作ってみたぜ」
「処分前提で話を進めないでください。その他のキャラAさん」
「なんだい、違うのか?」
変な魔法を使ったり剣を持っていたりと見た目から明らかに危ないチャオの方が多いのである。
どっかから来たチャオと言えども、人間の妄想から出来たチャオである。
そんなチャオばかり妄想される今日この頃、人間の思考は物騒になったと言っても過言ではない。
そういうこともあるためだろうか、チャオコンの人々は結構白い目で見られている。
よっぽど、頭の上に浮いているものがやかんだったケースの方がレアであり健全なのだ。
「今日は可愛い幼女が来るんです。ここで仕事していて良かったと思います」
「大して俺と変わらんじゃないか」
「その他のキャラと主要人物を一緒にしないでください」
と、反論する自称主要人物(ロリコンの容疑でクビ目前)。
そこに、子供とチャオが入ってきた。
チャオの方は背中のほうから人間の腕のようなものが生えていた。
「可愛いー」
だきっ。
彼女は子供に抱きついた。
そして、青い髪をとことんなでまわす。
「あの、それよりもこのチャオは」
チャオは背中から人間の腕を生やしていた。
「そんなのよりも、こっち。この子の方が大事」
「どうでもいいからこっち見ろ」
キレる青年。
最近の若者はカルシウムが足りない。
彼女はそう思いながら、チャオの方を見た。
驚愕。
「これマジ?」
「マジでしょう」
「人間の腕生えてますよ?」
「生えてますね」
「きっと、人間をキャプチャーするんですね。すごいすごい」
そう言って彼女は子供の方に意識を集中させる。
切り替えが早い所は彼女が誇っている部分なのである。
「人間をキャプチャーするって、危険じゃないですか?」
「そりゃあ危険でしょう。でも、いい研究材料ですね」
「はい?」
「ほら、試しに誰かキャプチャーされてみてください。キャプチャーされた生き物がどうなるのか解明に一歩近づきます」
まるで、研究のためならばなんでもしかねない狂人のようなことを言っているように見える。
だがしかし、彼女はただ興味が無いのでどうなってもいいというタイプの狂人である。
「じゃあ、適当に処理しておきます」
と、青年はチャオを抱き上げる。
その瞬間、チャオが口を開いた。
「私を殺そうというのかね?青年」