青年は非常に驚いた。
チャオが喋った例はこれまで一度もない。
起こることなど予測していなかった。できるはずもない。
青年はその場で動けなくなる。

「危険であると知覚できたことは立派だ。最近はそれすらできない愚か者も多い」

突然何かを語り始めた。
下手に動いたら間違いなくキャプチャーされるであろう。
青年は動けない。
そして、そんな青年を彼女は幼女と遊ぶことに必死で全く視界に入れていなかった。

「さあ人間!楽しもうじゃあないか!血の飛び交う祭を!!」

これは非常にまずい。
おそらく、殺される。
ざんねん!わたしのぼうけんは ここでおわってしまった!
そこまで考えて青年は正気に戻る。
どうすればいいだろう。
どうすれば殺されずに済むのだろう。

そう考えていると、チャオはその背中の腕で青年の体を思い切り押し、青年の腕から逃れる。
そして、地面と着地すると同時に背中を中心にどんどんチャオから人間の姿へとなっていく。
本当に人間をキャプチャーしていたようだ。
おそらく、キャプチャーした人間をモチーフとしてその姿が出来ているのだろう。
その目は、光を持たず。
その口から出る息は、気体と化した狂気と殺気。
その腕が、その足が、いつ誰の命を奪ってもおかしくはない。
流石、妄想の産物だ。
青年はそう思った。

チャオ、否、その人間が腕を動かし、青年の体を捕らえようとしたその時。
そいつの腕が爆発した。

「チャオ相手に使うバズーカなんだがなあ」

少し喋っただけで全く空気のような存在であったその他のキャラAが呟く。

「人間相手でも十分使えるじゃないですか」
「いや、そうでもないぞ。くらってみればわかる」
「殺す気ですか」

やつを殺したものだと思って、陽気に二人は話をしていた。
無論、普通ならば人間だろうと死ぬはずである。
しかし、果たしてやつが人間をキャプチャーするチャオで、なおかつ非常に狂気めいた人間の姿になるやつであったとしてもその普通が通用するであろうか?

「クックック、腕が数本使い物にならなくなってしまったか」

そいつの腕からはさらに無数の腕が生えていた。
そして、それらの一部が盾となり、焼け焦げていた。
だが、それ以外の部分は無傷。
その他のキャラAが再び攻撃をしようとする。
だが。
肝心の武器は手元から消えていて、何故かやつがその武器を持っていた。

「全く、こんなまずい餌しか用意できないとはな。シェフはどこにいる」
「いつの間に…!?」
「私はチャオだぞ。人間。武器は私の見えないところで使いたまえ」

その言葉で青年は理解する。
キャプチャーしたのだ。バズーカ砲を。
手がつけられない。
逃げるしかない。
でも、どうやって?
青年はとにかく頭を回転させた。

しかし。それにしても。
なぜ、俺はこうも生き延びようとするのだろうか?
なぜか、青年はそんな事を考えていた。
別に、無理して生きなくてもいいのではないか?
このような不思議なチャオに吸収されるのもまた一つの立派な人生なのでは?
それは、諦めであった。
生きることへの、諦め。

「もっと可愛い姿になれないんですか?」

場違いな声。

「ほら、なんかこうゴスロリ衣装とかの少女とかあるじゃないですか」
「面白い人間だな」
「そうですかね。ここまでとんでもないチャオになるほどチャオ妄想力が豊かな人ならむしろそっち方向になった方が自然なのでは?」
「ふむ。それもまた良さそうだな」
「でしょう?」

なぜか、普通に会話が成立していた。
青年はなぜか泣きたくなった。
助かったから?
生きることができるから?
いや、おそらく違う。
さっきまで幼女幼女言って、幼女幼女とチャオを無視していた人間に命を助けられたからだろう。

また、この後、人の命を救ったことを評価され、彼女は晴れて昇進した。
どうやら、彼女の仕事が楽なのは、その分青年などが苦労している(命がけで)からだろう。
ちなみに青年の方は給料が上がることすらないというのはオチとして当然であり、青年がその夜一人で泣いていたのは言うまでもない。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第301号&チャオ生誕9周年記念号
ページ番号
3 / 3
この作品について
タイトル
聖誕祭で苦労する人
作者
スマッシュ
初回掲載
週刊チャオ第301号&チャオ生誕9周年記念号