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軽い音を立て、部屋の自動ドアが開く。
「チャオー」
人ほどの大きさも無い。半分も無い。そこにいたのは、緑と青が混じった色の肌をした、人型の生物。チャオである。
「いい加減、chaoとciaoをかけた挨拶をするのは…」
「ダメチャオ?結構気に入っているチャオ」
これ以上に無い笑みを浮かべ、体をくねらせて喜んでいる。
空を見て呆然としていた男ははっと気づき、チャオの方へ走る。
ひざを曲げ、チャオの肩を持ち顔を近づけて話す。
「あの…!あの五人は大丈夫なのか!」
「痛いチャオー!離すチャオ!」
男はチャオを慌てて離す。なぜかバランスを崩し、後ろに倒れる。
「く…」
「チャオ、それでどうなんだ?」
隅に立っていた男は冷静に問うてみる。
どうやら、肩を掴まれたのがよほど痛かったらしく、チャオは肩を軽く叩いていた。
「うん…。呼吸もしてるし、回復の見通しは十分にあるって言ってたチャオ」
それを聞いた二人の男は安堵の表情を浮かべ、そっと胸をなでおろした。
チャオを連れ、隅にいた男はどこかへ去っていった。
部屋に1人残った男はその部屋のベランダに出て、下界を見下ろす。
白塗りの地面や、白塗りの防波堤など、全体的に白で統一されている。
技術の革命的進化。23世紀の出来事である。
部屋の中の資料の乗った机などを覗きこみ、深く考え事をする。
こんな未来が昔望まれた世界だったのだろうか。と。
いても立ってもいられない。何も感じることもなく、それを本当に望むわけでもなく。
ベランダから男は飛び降りた。
23世紀。2230年、5月28日。
前日、研究所の男が飛び降り自殺を図った。
地面には柔軟材が混ぜられている。勉強の技術も革新し、いろいろと苦悩するようにもなる。
また、いじめの横行は200年以上も前の状態と変わりもしない。混ぜておいても大丈夫だ、と政府が判断したのだ。
取り除く際には、一定の温度を保てば自然に消えるという。
危険なので、それは民衆には知らされていない。
とどのつまり、男は自殺未遂に終わった。頭が柔軟材によって護られ、胴体が地面に叩きつけられただけだ。
全身打撲。見下ろすほどの高さなのに、それだけで済むのだ。
病室の男に、チャオが尋ねに行く。
「チャオー」
聞きなれた挨拶。突っ込んで欲しそうなその表情。
いろんなことに疲れている男は、無視して窓から風景を眺める。
「例の五人のうち、五人全員がうつに入ったチャオ」
報告をしに来たんだろうが、それすらも無視する。
ちゃんと理解はしている。ただ、返答するのが面倒だったからだ。
「ちょっとー。聞いてるチャオー?」
ベッドの上に飛び込み、男の顔を軽くビンタする。
ぱち、ぱち、ぱち。その行動がなぜか微笑ましく思え、男は笑った。
「気味悪ー。早く治すチャオ。こっちの仕事が大変チャオ」
そういって、駆け足で病室を後にした。