--3

「いつ出ればいいんだ?ここから早く"出して"くれ」
レストランには警備も無く、安易に立ち寄れる。店内は騒音の嵐。人が集まっているのだ。
水だけだったので代金も払わず、そのまま店内を意味も無く歩き、外に出た。
そこには、とんでもない光景があった。

ルートを間違えた皇太子夫妻の車が店の前に堂々と止まっているのだ。
ポケットに入っている拳銃のトリガーに中指を入れて回転させながら、目の前まで持ってくる。
軽く手のひらに当て、反動で少し浮いた瞬間に力をいれ、見事キャッチした。
車のタラップに乗り込み、大公へと引き金を引く。
「死ねええええあああっ!!」
警備員の抑制も間に合わず、そのまま銃弾は大公へと命中した。
間も無く、大公妃にも一回引いた。
これは運が悪かった。
大公妃の運が悪かった。
身をそらしたせいか、当たり所が悪く即死してしまった。
大公妃の体を抱きしめながら、大公が叫ぶ。

「ゾフィー!ゾフィィィィィィ!子供達のためにも…死ぬなっ!」
ゾフィーというのは、大公妃の名である。最期の力。全てこの一声へと注ぎ込む。
やがて大公の体は力を失い、倒れこむ。
「やった!戻れるんだろう、なぁ、戻れるんだろう!?」
空へ向かって青年が叫ぶ。
「うおおおおおおお!!」
拳を空へ掲げ、威風堂々とした青年に向かって警備員が銃口を向ける。
「抵抗するな…いいな、抵抗するな」
穏やかに宥め、空へ向かって発砲する。
その警備員に向かって、青年は指を指してこう言った。

「見えた…故郷だ」
晴天の中、光に溶け込むように青年の姿は消えていった。

「例のプロジェクト、一名成功。五名重体。
 成功した一名は現在部屋で休息を取っています。五名の処理につきましては…」
「それは言わなくてもいい ご苦労だった、持ち場に戻れ」
「了解しました。失礼します」

白塗りの壁。その内に、発光体のようなものが見られる。
電灯どころか、電球の時代ではない。天井がそのまま光っているように見えているのだ。
部屋は適温に設定され、大きなテーブルの一辺に資料と、その資料を読んでいる一人の男の姿があった。
「歴史を身を持って知る…。義務教育をここまで厳しくするなんて。理解に苦しむ…」
頭を抑え、落胆する男。
「今のは失言だな。口を慎め」
部屋の隅に立ち、時計を気にしている男が釘を刺す。
「お前に私の苦しみは分かるまい!これで私は批難轟々だ…」
「………」
トゲトゲとした雰囲気が部屋を包む。
[ Project H ]
そう銘打たれた資料には、細かいことが延々と書き綴られている。
「ヘタすりゃ、この五人は廃人だ」
資料を机に叩きつけ、イスから立ち上がる。
後ろの窓の方へ歩き、下を見下ろす。
丁度、目の前を大きな羽のチャオが飛び去る。自由奔放に、気楽そうに。
男は自分の背中を見て、悲しんだ。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第249号&チャオ生誕8周年記念号
ページ番号
3 / 5
この作品について
タイトル
「作戦名エイチ」
作者
Sachet.A
初回掲載
週刊チャオ第249号&チャオ生誕8周年記念号