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この失敗をも気づかない、2人目の青年。
持っていた爆弾を握り締めた、その顔には結構の良い肌がある。
「殺せばいいんだろう?簡単なことだ。俺にはハンデがある」
彼の言うハンデは、紛れも無くその爆弾のことだ。手榴弾とも言うのだろうか。
車一台が軽く吹っ飛ぶような火力を持つ。それくらいあれば楽だと判断したのだ。
「大公の車はどれですか?」
近くにいた警察官に喋りかけるのと同時に、慌てて持っていた爆弾をポケットに入れる。
「あれだよ、あの方がそうだ」
警察官は速やかに、夫妻の車を指差した。瞬間、夫妻の姿が鮮やかに見えるようになる。
「フラグは立った。後はこれで終わりだ」
青年は近くに立っていた電柱に手榴弾を強くかすりつけ、そのまま夫妻に向かって爆弾を投げた。

爆弾は弧を描き、大公妃に当たる。
被爆したのではない。当たっただけだ。跳ね返り、道に転がる。
その爆弾を後続の車が踏みつけ、爆発した。
被爆した車は大破し、周りには重軽傷を負う人の姿が映った。
「そんな…ウソだろ…」
青ざめた表情の青年を、先ほどの警察官が押さえつける。地面に叩きつけ、関節をねじり、抵抗できなくする。
「お前!何をしてるんだっ」
警察官が青年に集まり、両手の親指の間接と間接の間に紐を硬く結び、次にひざの下を結び、足と手が使えない状態になる。
ただ、次の瞬間には既に首は無く、警察官はその死体が自分たちの手の中から消えていたことに気づかない。
誰にも気づかれることはない。警察官は、ずっと「青年を抱えている」つもりになっていた。

だが、それに気づいた人もいること。2人の青年が顔を見合わせて相談している。
「ここを通るってことは…一人目も失敗している」
「ダメだ…俺はこんなことは…ああああ」
気味の悪い感触が背中を襲う。手が這いよっているのか、そうでないかはわからない。
2人の目の前で、首の無い体がうねうねと尺取虫のように動いていた。
手足を動かそうと必死に。頭は無表情のままずっと地面に転がっていた。
「弱音を吐くなっ!ここでっ やらなきゃ…」
気味の悪い感触は全身に広がり、やがて2人は地面に倒れこむ。
その光景は失笑物であり、周りの人々が2人を覗きこみ、笑みを浮かべる。
見えているのだ。

「ああ、うっ」
それを堪え切れなくなった、片方の青年が失禁する。
どんどん暖かくなり、寒さを感じなくなった日のことだ。湯気なんてものは当然立たない。
西洋の国だとしても、だ。当然ではないかもしれない。午前中のことだったのに。
目を見開いて、その青年の悶絶を目にしながら頭が飛んだ。
音も立てず、静かに飛んだ。体の方は、楽になったかのように大の字になっている。
「そんな…ああああ」
全身に細かく切り傷が出来る。無数に、そして深く。
血がにじみ出て、至るところからポタポタと垂れ始める。
「痛い…痛いよおおお」
苦痛の叫びは既に群集には届いていないようで、そのまま出血量が致死量に達し、死んでいった。

「これがシナリオ…なぜなんだ?」
レストランの席に腰掛、青ざめた表情でコップを見つめる彼。
2人目の最期を見てからこのレストランに入っている。
「本当に怖いのは周りの奴らだ。なぜあれを見てなんとも思わないんだ」
嘔吐しそうになる体を何とか抑えて、顔を腕の中に埋める。
その瞬間、外では1人の青年が走りながら頭を落とした。
骨の音が心地よく鳴るが、誰も気づいちゃいない。そもそも、壁がガラス張りではなかった。

「なんなんだこの街は!?酷すぎる、今すぐ妻に謝れっ!」
「いいんですよ、もう、私が我慢し切れれば…」
強気な態度をするが、目に涙を浮かべている。
その心情を読み取り、大公は改めて歓迎に応えることにした。
大公妃から"けが人のお見舞いに行きましょう"との提案があり、それに一行は従う。
何の目的があってこんなことが起きたのか。それすらも分からないままだ。
こうして、車に再び乗り込んだ。
サラェボの博物館の記念式典の予定を変更し、けが人のお見舞いへと出向いたのだ。
だが、肝心の運転手には知らされていなかった。
そのまま、本来のルートを車で走った。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第249号&チャオ生誕8周年記念号
ページ番号
2 / 5
この作品について
タイトル
「作戦名エイチ」
作者
Sachet.A
初回掲載
週刊チャオ第249号&チャオ生誕8周年記念号