第三話

 T町で暴れていたソウヤと名乗るチャオに案内をさせ、ぼくたちは殺人チャオ集団の親玉のもとへと向かっていた。目的を達成するためには親玉を潰せばいい、というわけではないが、やはり親玉を使うのが一番手っ取り早かった。先ほどまでソウヤと戦っていた橋本と名乗る男も、難しい顔をしながらぼくたちの後ろに続いていた。
「思い出した」
 突然、橋本が声を出した。何を思い出したのかは、その声の緊迫感からなんとなく想像できた。ソウヤも呆れた顔で橋本を見ていた。
「二十年くらい前に連続殺人をした子ども。お前だろう」
 想像通りであった。当時は咎める言葉に怒りを覚えていたが、今となっては記号的にしか聞こえなかった。
「そう」
 答えるのが億劫なので無視をしていると、怜が答えた。そのあまりに簡潔な答えと、ぼくの隣に当たり前のようにいる怜に橋本は言葉を失っていた。
「今ごろ気づいたのか」
 ソウヤが橋本にそういうと、橋本は我に返ったようにソウヤを睨んだ。
「黙れペンキまみれ」
 ソウヤの顔が一瞬怒りにゆがんだが、それ以上のことはしなかった。
「俺の家族はペンキまみれに殺されたが、お前だって同じだ。何でお前みたいな悪人が生き残って、何もしてない善人が死ななきゃいけないんだ」
 橋本は今にも殴りかかってきそうだった。ぼくに迫りながら口調を荒げる。
「あなたは何もわかってない」
 そんな橋本とは対照的に、水に落としたような声で怜がいう。橋本は怜に言葉の矛先を向けた。
「何をわかったら人殺しが許せるんだ。殺人者と一緒にいて思考が麻痺してるんじゃないか?」
「あなたは何もわかってない」
 怜は同じ口調で繰り返した。だが、怜が今にもナイフを握りそうな気配を感じ、ぼくは少し驚いた。怜が怒りを見せるのは、珍しいことだった。
「怜、放っておこう」
「その男にくっついてるだけで、理解者気取りか。何もできないくせに」
 橋本という男は本当に何もわかっていない。この様子だと、これ以上連れて行くのはやめたほうがいいだろう。
「晶、少し別れよう」
 怜がぼくにそういった。これにはぼくも言葉を失った。怜の口から、ぼくと離れる旨の言葉が出てきたのは初めてのことだった。怜も変わり始めているのかもしれない。
「わたしはこの男を連れて行く。あとでまた合流しよう」
 怜は橋本を指差した。ひるんだ橋本はただ怜を見ていた。
「わかった。ソウヤ、怜に目的地を教えて」
「S動物園だ」
 なるほどな、とぼくは思った。チャオたちに動物をキャプチャさせるなら、一番便利な場所だろう。
 そしてぼくとソウヤはS動物園に向かい、怜と橋本はどこかへと歩いていった。

このページについて
掲載日
2012年5月9日
ページ番号
3 / 6
この作品について
タイトル
錆びたナイフ
作者
ダーク
初回掲載
2012年5月1日
最終掲載
2012年7月12日
連載期間
約2ヵ月14日