四章 挫折
それからしばらくして、Splatoon2が発売されました。
様々な人がいました。新しいゲームを受け入れられない人、新しい環境に挑んで行く人、違和感を覚えながらも続けて行く人……
ぼくは情熱と信念をもって新しい環境に挑んで行く者のひとりでした。
しかし様々な環境を経るたび、違和感もまた増えて行きます。
どこへ行っても1人であるという違和感です。
Splatoonという大きなコミュニティの中には、複数のグループがあります。チームと言ってもよいでしょう。
ぼくはどこにも馴染めませんでした。
もちろんぼくの人間性の問題もあるでしょう。もっと根気強く探せばどこかしらにあるのかもしれませんね。
ただぼくは仲が良い人が1人でもいればよいのです。本心から情熱を共有でき、お互いの信念を尊重できる相手が、たった1人で良いから欲しかった。
でもそんな人はいませんでした。
薄っぺらい関係に違和感がありました。どこへ行っても何かが違いました。誰とチームを組んでも、1人でゲームをしている時と何も変わらなかった。
チャオBBSというコミュニティから人が減った理由のひとつは、一部の人の行き過ぎた信念がその場所を「居心地の悪いもの」にしていたからです。
ルールがあって、マナーがあった。
それを強要する空気があった。
一概にそれが悪いとは言いません。ルールやマナーがあることでチャオBBSは独自の文化を築けたし、たとえ風潮が変わっても新作の提供されないチャオ・コンテンツが滅ぶのは時間の問題だったでしょう。
ですが信念とは他人との関わりにおいて邪魔になるのです。
時には言いたいことをぐっと呑みこまなければならない。目を瞑らなければならない。都合の悪い話には耳を塞いで、嫌なものには関わらないようにしなければならない。
全てと正面から向き合うことは、「信念」を持って生きることは疲れるのです。
だからぼくは信念を捨てました。
信念を持って生きることは疲れるのです。
情熱さえあれば自分らしく生きられると思ったからです。
薄っぺらくても安易な楽しさに身をゆだねればそれで丸くおさまるのです。
なんてすばらしい人生でしょう! つまらない争いもなく、心は常に穏やかで、まわりの人たちに存在を肯定される。
誰も傷付かないで済む、みんなが仲良しでいられる。
信念を捨てた先に待っていたのはそんな美しい世界でした。
そして、ぼくは「覚醒」を忘れたのです。