五章 DARK
ろっどは暗黒時代に突入しました。
覚醒ができない。
それは今まで一度もなかったことです。
ぼくを特別な人間たらしめているのは、ひとえに「覚醒」があったからです。
それが使えないろっどは逆境を力に変えることができない。
しかし悲観はしていませんでした。
必殺技の封じられた主人公。それが当時のぼくの立ち位置だった。いずれできるはずだ。自分を追い込んで、それをバネにする。
「覚醒」とはそもそも何だったのでしょうか?
覚醒している時、ぼくは不思議な万能感に包まれています。何でもできる。絶対にできる。どんな困難でも乗り越えられる。
あまり自信のない状態から、一気に自信に満ち溢れている状態に変化する。
100%集中するための自己暗示のようなものなのかもしれない。
逆境の最中、折れそうな心を奮い立たせて立ち上がった時、ぼくは誰にも負けない自信を身に付けます。
だから、今回もそのサイクルのひとつだろう。
ところがいつまで経ってもできるようにはなりませんでした。
「覚醒」さえ使えればもっと活躍できるはずだ。今の俺は必殺技が使えない状態で戦っているだけだ。
だけど、本当にそうだろうか?
「覚醒」なんて最初から存在していないんじゃないか。今の自分は常に実力を発揮できている状態なんじゃないのか。
そんな焦燥とは裏腹にSplatoon2では実績を積み重ねて行きました。
準優勝、準優勝、そして準優勝。優勝はできなかったものの、安定して大会で入賞することができました。
いつしかぼくはSplatoonというコミュニティにおいて「少し名前の知れた存在」になっていました。
だけど覚醒はできるようにはならなかった。
かつてあれほどあった情熱が、薄れて行くのを感じていました。
色々なものに触れて感動しては影響を受けて、次々と新しいものを身に付けて行くはずの「ろっどの物語」は、信念を捨て情熱が薄れたことにより途端に失速します。
気が付いた時、ぼくはただ偏屈なだけのサラリーマンになっていました。