Act.8 衝動
崩れ落ちるアリサ。その一方で、神凪は黒川の部屋を見回していた。
【神凪】「これは・・・ソニックのゲームにグッズ・・・こっちはナイツ、ぷよぷよ、ファンタシースター、この前発売されたばかりのワールドアドベンチャーもある・・・ソニックチームのゲームばかり・・・」
前日の夜、家にソニアド2バトルを見つけてから、色々とソニックチーム関連について調べていた。見れば大体わかる。
・・・そして、1つの疑問が生まれた。
【神凪】「なぁ、何でだ・・・?
自分でチャオの世界を創っちまうぐらい、チャオが好きなんだろ?じゃあ何で、IDOLAを利用して世界を滅ぼそうとするんだよ!!」
【REMEMBER!![リメンバー!!]】Act8.衝動
すると黒川は、神凪の方を振り向くや否や、こう叫んだ。
【黒川】「これ以上・・・絶望したくないのよ!!!
創世記の旧チャオBを見て、チャオは絶対有名になるって信じたのに!!
旧チャオBの大物たちが、チャオを永遠に支え続けるって信じたのに!!
ソニアド2発売を聞いて、チャオの無限の可能性を信じたのに!!
ゲームキューブに移植して、今度こそチャオが広まるって信じたのに!!
新チャオBにたくさんやってきた子供達が、チャオの未来を支えるって信じたのに!!
署名運動が始まるって聞いて、絶対にチャオを救ってくれるって信じたのに!!
・・・私はその度に絶望した・・・」
その語気の強さに、神凪の動きは止まった。彼女の言っていることの細かい意味は、神凪には分からない。
ただ、言いたいことはおおよそ察することができた。この人は、昔からチャオを見ている。そして、チャオが育成できる新作ゲームは、ここ数年出ていない。それが把握できれば十分だ。
【神凪】「それで・・・チャオ10周年で週チャオも終わってしまう今、自棄[やけ]になって全部壊そうって・・・」
【黒川】「でも、もう私の負けよ・・・このままチャオも私も消えていく・・・何事も無かったかのように・・・」
彼女がプログラマーになったのも、全てはチャオのため、IDOLAを創るためだったのだ。
でも、いくら自分が有名になって天才になったところで、チャオが有名になる訳ではない。
何より、IDOLAを創ったところで、結局はそれは偽物でしかないのだ。決して本物にはなり得ない。
【黒川】「IDOLAを創ったのはただの自己満足だって気づいてから・・・破滅願望が出てきた・・・
なんでみんなこんなにかわいいチャオを分かってくれないのって・・・なんでみんな忘れていくのって・・・!」
【神凪】「だから、世界をIDOLAから滅ぼそうとするって・・・!」
その時、神凪にある台詞が頭をよぎった。
『復讐に来たの・・・夢を忘れた人間に・・・』
カレンのこの言葉である。そしてつまり、黒川の憎悪対象は、チャオという存在を忘れていた自分のような人間だと悟った。
と、同時に、こんな言葉が口をついて出た。
【神凪】「やってられるかよ・・・たかがゲームキャラ1つ忘れただけで復讐されて滅ぼされるなんて・・・やってられるかよ!!!
・・・なぁ、どこだよ!?てめぇの勝手な逆恨みで消えた森下と富永はどこだよ!!行方不明になった何十人って人間はどこにいるんだよ!!!」
気がつくと、それは怒りに任せた叫びに変わっていた。
黒川は力なくうつむきながら、カタン、と自分の椅子に座り込む。
【黒川】「闇を消せば、行方不明者は戻ってくる・・・だけど、プログラムは不可逆・・・もう戻れない・・・戻れないのよ・・・!!」
神凪はそれを聞くと、
【神凪】「ちくしょおおおっ!!!」
やり場の無い怒りを、ベッドに向かって蹴りこんだ。ここで黒川にあたっても無意味だ。
ところが。
【アリサ】「いや・・・いけるわ・・・1つだけ方法がある・・・!」
突然、アリサがそうつぶやいた。
【神凪】「!?」
そちらを振り向く神凪。
【アリサ】「闇の侵食がこれ以上加速することはない・・・ならば、それ以上の速さで、逆に『光』で闇を侵食してしまえばいい・・・!」
【黒川】「闇以上の、光・・・?」
さらにアリサは続ける。
【アリサ】「言ったでしょ?チャオ世界…IDOLAのエネルギー源は、この世界でみんながチャオ関連に費やす電気だって・・・」
・・・そこで神凪は気がついた。
【神凪】「・・・まさか!!!」
【アリサ】「ええ。この世界でたくさんの人間が一斉にチャオ育てを始めれば・・・!」
【黒川】「無理よ・・・無理よそんなの・・・無理に決まってるじゃないの!!」
それを聞いた黒川が絶叫する。半分目が笑い、狂ったような表情で。
【黒川】「もう何十人ってレベルの人間しかチャオを育ててないのよ!?どうやってそれだけの人間にチャオを思い出させるのよ!!
こんな話をして信じてくれる人間が一人でもいると思ってるの!?奇跡でも起こらない限り無理よ!!」
だが、神凪はこう言い放った。
【神凪】「アンタ、チャオが好きなんだろ!?だったら、チャオを、チャオラーを信じろよ!!
チャオラーが起こす奇跡を信じろよ!!それが本来とるべき行動じゃねぇのかよ!?」
【黒川】「・・・・・」
黒川は何も言い返せず、黙り込んでしまった。
<続く>