Act.5 煽動
アリサにとって、昨日の戦いは人間世界だった上に、神凪に憑依して戦うという制限付きの戦いであった。
だが今は、自分の支配する世界であるチャオ世界。それに、神凪もいない。
本気を出さない理由は、無かった。
【REMEMBER!![リメンバー!!]】Act5.煽動
次の瞬間、アリサは背中から巨大な翼を広げ、カレンを包み込もうとする。
【カレン】「・・・!!」
それを見て動きを止めるカレン。やがて、巨大な『包囲網』が完成した。
【アリサ】「いくらなんでもこれなら!!」
そして、その全周囲から、無数の光線をカレンに浴びせた。中央で、巨大な爆発が起こる。
【神凪】「!?」
その爆音に驚き振り向く神凪。だが、もう何が起こってるのかよく分からないような場所まで来ていた。
すぐに再び走ろうと、正面を向きなおしたが———
【アリサ】「フェイク!?」
爆発が起きた場所に残されたのは、真っ黒に焦げた人形。その形跡から、カレンと同じ服を着ていたことがやっと分かるぐらいだ。
つまり、見事に騙された訳である。
【アリサ】「本物はどこに———まさかっ!?」
神凪の正面に、人の姿があった。
【神凪】「なっ・・・!
か、カレン・・・っ!!」
アリサと戦ってるはずのカレンが、目の前にいる。状況は、圧倒的不利。武器もない上に、チャオを抱えてる。
【カレン】「あちらは・・・フェイク・・・」
彼女は神凪の心の中を読み尽くしているが如く、そう答える。
【神凪】「な、なんで俺を・・・っ!」
【カレン】「『寄り代』を消せば・・・彼女は人間世界で再び無力になる・・・」
前日、アリサは最初の戦いの際、「神凪を戦えるようにするために」と言い憑依したが、実はもう1つ理由がある。
人間世界では、彼女の力は弱まってしまい、一人ではマトモに戦えないのだ。だからこそ、『寄り代』となる人間が必要。
両者がチャオ世界にいる今は、『神様』として暴れ放題のアリサより、神凪を叩く方がどう考えても楽である。
そして、カレンが剣を抜く。
【カレン】「これで・・・!」
【神凪】「ぐっ・・・!」
神凪は覚悟した。チャオは泣き出すが、それどころではない。そもそもこのままでは、どちらも———
その瞬間、神凪の後方から一条の光が延び、カレンの胸を貫いた。
【神凪】「!?」
【カレン】「・・・!!」
振り向くと、アリサの姿が。ギリギリ間に合った。
【アリサ】「ふーっ・・・このあたしが不覚をとるなんてね・・・」
カレンはというと、胸部にポッカリと穴が空いた状態でしばらく動かずに止まっていたが、その後、両足の先から『崩れ出した』。
彼女の体が、足先から小さくて青い立方体になり、バラバラと崩れていき、それが消えていく。
【アリサ】「・・・!!」
【神凪】「こ、これは・・・まさか、こいつ・・・」
【アリサ】「デジタルデータ・・・ゼロとイチの化身・・・」
彼女は、『プログラム』だったのだ。
ここから導かれることは、つまり、このプログラムを組んだ『人間』が、どこかにいるはず、ということ。
呆然として見ているうちに、カレンの姿は徐々に消えていき、やがて頭も完全に消えた。
しばらくの沈黙の後、神凪が喋り出す。
【神凪】「つまり・・・チャオ世界を通じて人間世界を滅亡させようとした『犯人』が、俺達の世界にいるってことか・・・!?」
【アリサ】「ええ・・・でもどうしてそんな面倒なことを・・・?」
その謎が残る。これだけのプログラムを組むことができる人間ならば、直接世界に手を下すことだってできるはずなのだから。
【アリサ】「・・・とりあえず、当面の脅威は去ったわ。今日は戻って寝ましょう。」
闇の侵食自体は消えておらず、その広がるペースも変わらない。いなくなったのは監視者だけなのだから。
だが、とりあえず今日は休んでおいたほうがいい。その思いは、神凪も同じだった。
【神凪】「ああ、そうだな。・・・ところでコイツは・・・って寝てるな。」
いつのまにか、泣いていたチャオは、すやすやと寝ていた。
神凪はそれをそっとアリサに渡すと、次の瞬間にはもう、自分の部屋に戻っていた。
【神凪】「ふーっ・・・・いでででっ!!」
ベッドに転がって安心すると、収まっていた筋肉痛が再発した。あまりの苦痛にベッドから転げ落ちる。
その勢いでテレビの横のラックにぶつかり、しまっていた漫画やゲームソフトが一斉に部屋に散乱した。・・・元々お世辞にも片付いてるとは言えない部屋ではあるが。
【神凪】「あ゛ーっ!!」
体の上にも容赦なく落ちてきた漫画やゲームソフトに、思わず叫び声をあげる。今は家は留守で、反応する者はいない。アリサも今日はチャオ世界に戻っている。
これを片付けるのは明日だろうなぁ、と思いつつ、ふっと床を見る。
【神凪】「な・・・っ!!」
そこには、『あるもの』が落ちていた。
<続く>