<その3>
<その3>
集合場所である都内の大型電気店の入り口付近。みーちゃんが現れた。
【みーちゃん】「はぁ・・・外出なんて何ヶ月振りだろう・・・」
既に触れた通り、中の人はニート。外見は、ごく普通の少年である。
【シロうさぎ】『私が一番集合場所に近いから、私が30分前から待機してますね。でっかいチャオのぬいぐるみ持ってくから、それを目印によろしく!』
これは、昨晩のシロうさぎさんがチャオ・オンライン上で喋った内容である。
それを思い出し、辺りを探す。時刻は、10時36分。すると―――いた。
大きなチャオのぬいぐるみを抱えて、壁に寄りかかっている若い女性の姿。間違いない。
多少の勇気が必要だったが、思い切って近づいて、声をかけた。
【みーちゃん】「あの、チャオのぬいぐるみ・・・」
【シロうさぎ】「あ、ひょっとして、みーちゃん!?」
こちらからほとんど何も言ってないのに、彼女はすぐに自分を判別した。驚いて生返事をするみーちゃん。
【みーちゃん】「は、はいぃっ!!な、何で分かったんですか?」
【シロうさぎ】「いやー、なんとなくそうかなーって。・・・一応、はじめまして、かな?シロうさぎです。」
【みーちゃん】「あ、はじめまして。」
改めて挨拶をする。
【みーちゃん】「なんか、ごめんなさい・・・みーちゃんの中身がこんなんで・・・」
【シロうさぎ】「いいよいいよ、ネトゲの世界ってそんなもんだし。」
それから、チャオの話題で盛り上がる。オンラインゲームのチャットと現実のおしゃべりでは、また違って、それが面白い。
しばらく話してると、サラリーマン風の男性がこちらにやってきた。
【シロうさぎ】「お、クリスタルさんかな?」
【クリスタル】「ああ、そうです。どうも。」
軽く会釈。会釈を返す2人。
【クリスタル】「シロうさぎさんで、みーちゃん?」
と、2人を指しながら確認する。2人は頷き、クリスタルさんも雑談の輪に入る。
【クリスタル】「いや、まだいい方じゃない?
昔、別のネトゲで結構大規模なオフ会に混じったことがあるんだけど、いわゆるロリキャラの中の人が絵に描いたようなオタクだったことがあって・・・」
【シロうさぎ】「ほ、本当にあるんだそんなコト・・・」
やや時間が経って、11時手前。
黒髪、ショートカットの若い女性が慌てた様子でこちらにやってきた。・・・天の川さんである。
【天の川】「すいません、お待たせしました!えっと、オフ会ですよね?」
【シロうさぎ】「うん、天の川さんね?こんにちは。」
改めて全員が挨拶する。これで、全員が揃った。
かくして、オフ会スタート。まずは、集合場所になった電気店をみんなでウィンドウショッピング。
【天の川】「あ、このケータイいいな・・・でも機種変したばっかだし・・・」
【シロうさぎ】「そういえば、天の川さんって普通に高校生?」
【天の川】「そうです。ネトゲばっかやってる暗い女子高生ですけど・・・
一応今年受験なんですけど、推薦が取れそうなんでネトゲもやり放題みたいな感じで。」
【クリスタル】「羨ましいなー、推薦で遊び放題かぁ。
俺は浪人してずっと勉強漬けだったから。」
【みーちゃん】「・・・」
こういう話題になると、どうしてもみーちゃんは入っていけない。ひたすら聞く側に回る。
ひととおり回れば、既にお昼を過ぎていた。
大体電気店というのは高額なものが並ぶため、大抵は見るだけで終わる。
【クリスタル】「それじゃ、お昼にしますか。何がいいだろう?」
【シロうさぎ】「うーん、そういえば全然考えてなかったなー。」
【クリスタル】「俺もこの辺はあんま詳しくないんだよなぁ。」
こういう場合、考えていても決まらないものである。手っ取り早く、目の前のハンバーガーショップに飛び込んだ。
【クリスタル】「何がいい?俺が注文してくるから、席取っといて。お金は後でお願い。」
【シロうさぎ】「一人じゃ無理だろうから、あたしも行くよ。よろしくね!」
【みーちゃん】「あ、はい。んじゃ、あれをお願いします。」
【天の川】「あたしはそれを。」
2人は階段を上がり、2階席へ。ボックス席を1つ確保して、座る。
・・・曲がりなりにも、アイドル活動が苦手、と明言している天の川さんと2人である。やや気まずくなり、無言。
【みーちゃん】「・・・」
【天の川】「・・・」
だが、さすがにこの空気はまずいと思ったのか、天の川さんが沈黙を破った。
【天の川】「えっと、あたしと同じぐらいですよね?いくつぐらいなんですか?」
【みーちゃん】「今年18だから、同い年だと思います。ニートやってるとそういう感覚が薄れてきちゃって・・・」
・・・そこで、2人の視線が上がり、目が合った。
その瞬間、2人に妙な既視感が走った。デジャヴのような感覚だが、もやもやしてハッキリしない。
2人は同じように目線を下げ、記憶からその感覚の正体を探る。
・・・その答えに辿り着いたのは、2人同時であった。
【2人】「ああーっ!!!」
互いを指差し、驚きの声をあげる。その声に、周囲の人間の視線が一瞬向く程であった。
・・・なんと2人は、中学時代のクラスメートだったのだ。
<続く>