表紙 Last Episode 第7話「アレクセイ・アルブーゾフの名言」

~あらすじ~
某国で偽物の週刊チャオが発売されていることを知った週刊チャオ編集部。
調査のために現地に派遣されたふうりんとキョーバ君は、調べに寄った倉庫に閉じ込められて……。
チャピルを筆頭とする残された編集部員は、偽週刊チャオの正体に「空気」と呼ばれる、存在感の極端に薄い男が絡んでいることを知る。DX(猫)はその空気の臭いを辿り、敵の正体へ迫ろうとしていた。
一方でかいろ君はテレビ局で起こしてしまった事件により、負債を抱えてしまう。
他人からお金は受け取らない主義のかいろ君は、この返済に悩んでいた。


「うおおおおおお!!! ファイトオオオオオッデラアアアアックス!!!!」
DX(猫)は頑張っていた。頑張りたくないが頑張っていた。
チャオの持つ最脅の対小動物用生体エネルギー吸引、通称、キャプチャ。キャプチャされた小動物は、その場で生きる気力の99%を奪われ、その後数日は絶望の縁をさまようことになるという、小動物たちにとっては非常にオソロシイ攻撃である。
そんなことには絶対になりたくないDXは、「空気」を探すために必死だった。

「ふつー、こういうのって、猫じゃなくて犬がするものなんじゃないですかー」けいりんが聞く。
「仕方がないじゃないですか。DXさんがどうしてもやりたいって言うんだから」チャピルが適当に答える。
「フレエエエエエッ! フレエエエエッ! デ・ラ・ッ・ク・ス!!!!」かいろくんはうるさい。

DXに渡された手がかりは、粉々になったカメラだけであったが、それでもDXは、ここまで全く間違えることなく、空気の臭いを辿れていた。これもキャプチャへの恐怖感が背後にあるからであろう。
臭いは会議室を出て、編集部ビルの3階から1階へ、受付や広報課を抜けると、また上の階へと続いて……そこまで辿ったところで、ふと、DXの足が止まった。
ビルの屋上へと続く階段。
「にゃあ?(なんじゃらほい?)」
編集部の屋上は、ここ数年の間全く使用されていない。2年前の聖誕祭記念写真のときに、一度だけ使われかけたことがあったものの、その時も結局使用されることなく、そのままの状態で残されている。
屋上に行く用事など全くないはずなのだが、DXの鼻は確かに、空気がその道を通ったことを言っていた。
「にゃあ……(これは……)」


☆★☆ 週刊チャオの表紙 - Last Episode ☆★☆
   第7話 「アレクセイ・アルブーゾフの名言」


♪とぅるるるるる~ がちゃっ
はいもしもし、こちら週刊チャオ編集部です。
え? えーと……いや、彼方はどちらの国の……ちょっ、そんな一方的に話を進められても……
ふ、ふうりん? ハッハッハー! イエース! オーケェーイ!
……

「どうかしたの?」
唐突に声をかけられた。よかった。まだ人がいたんだ。俺は状況を説明する。
「それが……この電話の方、何を仰っているのかよくわからないんですよ」
「ああ、ひょっとして君、聖誕祭のバイトの……ちょっと貸してみて」
言われるがままに、その人に受話器を差し出す。
その人は慣れた様子で電話に応対すると、少し話したのち、俺に向かって手招きした。

「あのね、4階の会議室に、チャピルって人がいるから、彼にこう伝えてきて。『某国でふうりんが調査中に、倉庫の中に入ったきり姿を消してしまった』って」
「なんですかそれは?」
「某国のファンクラブからの連絡よ。急がないと、今頃ふうりんは危険な目に会っているかもしれない」
両手を小さく縮めて、恐ろしさを強調するその人。
「さ、早く行ってきて! 電話番は戻ってくるまで、代わりにやっておいてあげるから!」
背中を押されるようにして、俺はとりあえず駆け出す。
それにしても……ふうりんって一体なんなんだ?


かいろくんが何気なく道を歩いていると、目の前に、とても一生懸命な人が現れた。
40歳を過ぎたぐらいで、おそらメタボリックシンドロームを気にしているであろう風貌のおじさんが、一心不乱に、倒れた自転車を立て直している。
しかし……。
「ああっ」
立て直そうとした自転車のハンドルにかかっていた買い物袋が揺れて、となりの自転車にぶつかった。
途端に、また、今までに直した自転車がドミノ倒しのように倒れていく……。

おじさんはため息をついた。
そして、無言で最初の自転車のところまで歩いていくと、またハンドルに手をかける。
かいろ君は、いてもたってもいられずに、そのおじさんに声をかけていた。
「手伝おうか!?」


奇数の自転車をおじさんが直す。
偶数の自転車をかいろ君が直す。
それをひたすら繰り返し、全ての自転車を元通りにするまで続く、単調な作業。
おじさんが不意に、口を開いた。
「かいろ君……だよね?」
「……そうだよ!」
突然の呼びかけにちょっと驚きながらも、かいろ君は答える。
「それは良かった」
おじさんは急ににこにこしながらかいろ君の方をちらりと見て、それから一気に喋り始めた。
「実は、私も週刊チャオは良く読んでるんだよ。娘がチャオを飼っているからね。ちょっと前の号でかいろくんの話に出てきた、自転車を直してる人って、私のことだよね。あれを読んで、ちょっと嬉しくなったよ」
そう言いながら、おじさんは慣れた手つきで自転車を立て直していく。
ちょっと前の号というのは第328号のことで、半年も前の号になるのだが、おじさんにとってはそんな時間など、どうでもいいらしかった。
おじさんの頬がほんのりつり上がる。
「ま、実際のところはふうりんの言う通りなんだけどね。名言をちょっと使ってみたくなったんだ」
「そ、そうだったのかああ……」
かいろくんはその話を聞いて、少しばかり残念な気持ちになった。つい先程まではそんな表紙があったことすら忘れていたのだけれど、いざ事実を聞いてしまうと、その瞬間、自分の何か大切な物が一つ壊れてしまったみたいに。

「今日もまた、自分でぶつかって自転車をこんなに倒しちゃったのかい?」
「まあ、そんなところ。自転車を止めようとしたら、うっかり隣のを蹴飛ばしてしまって」
「蹴飛ばすなよおおお!!!」
「ははは、でもね、今日は少しだけ事情が違うんだ」
おじさんの不思議な言葉が、自転車を直すかいろ君の手を止めた。

「今まで直してきたのが、私が倒してしまった自転車。だけど、ここから先は、私じゃない。元から倒れていたものだ」
そういっておじさんは次の自転車に手をかける。
「私は一介のサラリーマンだから、かいろ君みたいなオモチャオとは、見てきた世界も全く違うんだろうね。でも、あの表紙を読んでそんな接点のない者同士でも、あの名言は人の心を揺さぶれる。言葉はいつの間にか私たちを見つけ出して、繋げている。その瞬間を垣間見た気がした」
かいろ君は何も言わずに、その次の自転車のハンドルを掴んで、引っ張り上げた。
それを見たおじさんの笑顔がほころぶ。

全ての自転車を直し終わると、おじさんはお礼の代わりに、またあの言葉をくれた。
「『幸福というものは、一人では決して味わえないものです』」
その時のおじさんの太陽のような笑顔を、かいろ君は忘れることが出来ない。
かいろ君はふと、最も見つけたくなかった事実を見つけた。


【チャピル】「なっ、ふうりんが倉庫に入ったまま消えてしまって出てこなくて、今危険な状況かもしれなくて、ふうりんファンクラブ兼週刊チャオ同好会から報告があっただってええええええ!?」

【チャピル】「くっ……ふうりん救出特殊部隊、全員集合しろおおお!!」
しろおおお!
しろおおおお!
しろおおおおおお!!(エコー)

【けいりん】「画面の前のお友達に説明しよう! ふうりん救出特殊部隊とは、たった今名前がつけられただけで特に中身は用意されていない、新進気鋭の特殊部隊だぞ☆」

【DX】「にゃーん!(シュタアッ!)」
DX(猫)が、あらわれた!
【DX】「にゃあ! にゃあ!(ニセ週チャオを出してる連中は、このビルの屋上を根城にしとるかもしれんで~)」
【チャピル】「なるほど!」
チャピルはうなずいた。
【チャピル】「確かに、あの誰も使っていない屋上で活動されたら、誰にも気付かれることがないでしょう!」
【けいりん】「こっちで写真を撮ったりしている組織と、某国でニセモノを販売している組織には、必ずつながりがある。手近な方から攻めるわけっすねー」

【シグマ】「俺も参加させてもらおうか」
背中に剣を背負った物騒なチャオが、あらわれた!
【シグマ】「敵の本陣に攻め込むというのに、何の武器も持っていないような特殊部隊に、ふうりんの救出を任せるのは不安だからな」
【チャピル】「ありがとう、友よ! ありがとう、アールさんよ!」
【シグマ】「それはもしかして冗談で言っているのk」
シグマの台詞を、チャピルが遮る。
【チャピル】「天を突き抜きそのまた上にっ!」
【けいりん】「宇宙の果てまで貫けば!!」
【DX】「にゃあっ(熱い魂銀河を結ぶ!!!)」
【シグマ】「我ら、ふうりん救出特殊部隊!!!!!!」

このページについて
作者
チャピル
掲載号
週刊チャオ第343号
ページ番号
362 / 369
この作品について
タイトル
表紙
初回掲載
祝!復刊!週刊チャオ第1号
最終掲載
週刊チャオ チャオ20周年記念号
連載期間
約16年9ヵ月17日