終章の壱

黒い海とは良く言ったものだ。
須磨は、宇宙空間を飛行しながら心底、そう思っていた。
「須磨、調子はどうだ?」
搭乗員の一人、左下弦を操縦するDXが、新人を気遣って訊く。
しかし、反して冬木野は、
「大丈夫ですよ。某さんも路次さんも認めた新米さんですから」
「初めての本番飛行だな。見ろ、あれが地球だ」
両翼の操縦を、理解と並行して操り、須磨はモニターに映る青い星を見た。
星とは思えない、青。そのうちに散る、雲の白。
「これが、地球か…」
珍しく、須磨は感嘆の声をもらしていた。
「みんな、そろそろ来るよ。チャオの兵器が、…三百!」
頭部にて先陣を切る路次 幸介、またの名をろっどが、笑い声のように言った。
それを予鈴に、銀のツブテが黒い海を渡ってくる。
「下弦砲発射準備します。隊長、許可を」
木野 冬至が悪戯心を活用させたが、当人は気付かず、
「須磨、呼んでるよ」
ろっどの言葉で初めて自分だと気が付いた。
「隊長…ですか?」
「ああ、須磨が隊長だ。両翼のコントロールは任せてあるからな」
渋々と承諾するまでもなく、既に決定されていたが、悪い気分ではなかった。
偉そうに振る舞い、こほんと一息、
「許可する。やってくれ」
「了解しました。下弦砲エネルギー充填45パーセン―」
「待ってくれ。あの機体にはチャオが乗っているのか?」
「いや、無人だ」
DXが即答した。
「キャプチャー能力で機体そのものを遠距離から操作している」
「分かった。やってくれ」
二度目の指示に返事はなく、両下弦から砲弾が発射される。
肉眼では光っている何かとしか見えない砲弾は、苦労のほどもなく敵を殲滅して行った。
「懐かしいな…DX、覚えているか? 彼女の末期を」
「勿論だ。路次、お前がチャオを助けに行ったところが罠で、爆発に巻き込まれそうになった空中要塞の中…彼女はお前を引っ張り出して、宇宙から地上へ落ちた」
「…言い忘れていたが、僕はこの飛行を機に、死ぬだろう」
全員がそれぞれに思い、言葉の意味に驚く。
「だけど、最後に言っておきたい。僕はチャオが悪だとは思わないんだ」
「どういう事だよ?」
須磨が不審げに訊ねた。
「チャオは“大自然の意志”と言っていた。それに逆らう者、いわば悪を“人間”だとも言っていた。だから、僕はチャオたちも自らの正義にしたがっているだけ…と思う」
爆音のしない宇宙空間を漂い、その中で一つの声だけが響いていた。
「僕はチャオを傷付けたくは無いんだ。彼女も同じ思いだった。僕は…死ぬかもしれない。それでも、チャオの統領に立ち会ってみる」
「無茶だ、ろっど。そうなったら…」
「僕の死で何人の人が救える? スカイは―某を裏切ったんじゃ、無い。某の策略に乗っただけだ。僕はそれを知ってる。須磨、みんながみんな、チャオが悪い訳では無いんだよ」
その心中を察して、理解していても、ろっどは言い続ける。
「きっとスカイの策で某は生きている。後の事は、須磨と僕に託してくれた」
作戦遂行の合図を、そして意気投合の決意を、一つの言葉へと、変える。
「チャオたちと交渉する」


「路次さん…僕はずっと、あなたが僕の事を恨んでいるんじゃないかと思っていたんです」
冬木野が、大気圏突入と同時に言う。
「僕はあの場でチャオを助けられたのに、助けなかった。チャオを疑っていたんです。結果的に、それは正しい事となりましたが…それでも、僕がいっていれば」
「冬木野、それは勘違いだよ」
「そうだな」
DXとろっどが、一斉に言うところに、わずかな羨望を覚える須磨。
四人いて、四人の意志がある。
しかし、目的は一つ。
「さあ、青空が見えるぞ」
銀の龍は、空気の膜を貫いた。


「空―なんだか、懐かしいな…」
須磨が、言う。
晴れ渡る青空。澄み切った空気。自由な空間。多くの生命の呼吸。
全てを感じ、全てを思う。
「須磨、僕は某を助けるよ」
「別行動にはさせない」
きつい声でDXが言うのを、冬木野が支持した。
「一緒に行って、一緒に帰りましょう」
我に返るように、ろっどは明るい笑顔で、頷いた。
須磨は、こほんと偉そうに咳払いすると、
「それで、チャオの本部はどこにある?」
と訊いた。
「そこだ」
地面を指差すろっど。
「地下…か?」
首を振るDX。
「ここが本部だ」
冬木野が頷く。
「“透明化”されています。解析、分離し、即座に―」
「いや、」
須磨が、口を挟み、名案を出した。
それは、難しいが、一番手っ取り早く、なおかつ四人の目的にあった行動。
「…A−LIFE本部、チャオの統領にお願いします!私たちは争いをしません!和平交渉を行いに来た者です!」
大声で叫ぶと、“透明化”がはがれるように、建物が現れた。


プラネット・レジスタンス−結末の終章 壱

このページについて
掲載号
週刊チャオ第259号
ページ番号
5 / 6
この作品について
タイトル
プラネット・レジスタンス
作者
ろっど(ロッド,DoorAurar)
初回掲載
週刊チャオ第259号