次章の壱

五軍曹らが旅立って、早くも一週間が経っていた。
須磨は彼らの策略で、もっぱら某の独断だったが、月に残る事となってしまい、須磨はといえば自分の家で時を過ごしている最中だった。
自分が役に立てる、自分が世界のために貢献出来る―そんな夢を見ていて、壊れた。
暇潰しにと購入したテレビも漫画も本も全て、全て興味が沸かない。
「俺は、地球が見たい―そして、月に住む人を、喜ばせたい」
それとも、
「こう思う事も夢見がちなのか…?」
『臨時速報です』
付けたテレビが、音声を発する。そのときまでは、興味のかけらも無かったそれが、突然の一言によって変わった。
『本日未明、ERROR−2第一部隊の母戦艦、“悠久”が着陸しました。報告によりますと、出撃数は合わせて2万。その内帰ってきたのは、母戦艦の一隻だけ、との事です。今回の任務は失敗に終わったと、亡くなった某 大地さんと、A−LIFEのスカイさんに代わり、木野 冬至さんが会見して下さいました。今回の任務では―』
気付けば須磨は、

無言で家を飛び出していた。



プラネット・レジスタンス−覚悟の次章 壱



ERROR本部に到着した須磨は、即座に内部へ入ると、第一部隊会議室へ向かった。
「やはり君か」
DXが言う。一週間ぶりだというのに、懐かしげな雰囲気は無かった。
張り詰めた空気の中、木野 冬至こと冬木野は俯きがちである。
「二人だけですか」
「そうだ」
「某さんは? スカイさんは? 何があったんですか?」
問い詰めようと思っていた。
自分を裏切った報いとして、そして興味本位としても。
「某は敵軍の“時空を揺るがす砲弾”に巻き込まれ、スカイは裏切った。…その後は分からない」
「っ―…」
「終わりです。ろっどさんは欠け、僕らの戦力はほぼゼロ。勝ち目はありません」
冬木野の声が、やけに悲嘆と聞こえる。しかし、聞いている暇さえ惜しい。
一刻も早く、
「生きてます」
助けに、
「何とかなります」
行かなければ、
「某さんが、チャオ如きの術中に填る訳がありません」
ならない。
「…しかし、残るのは母戦艦しか無い上に、僕らと君を入れても三人でしょう。操縦すら出来ません」
「…それも、なんとかしましょう」
「ですが、母戦艦は“時空を揺るがす砲弾”で損傷しています。もうしばらくの間に、彼らは砲弾を完全に完成させるでしょう。そうなれば―」
「うるせえ!!」
声を張り上げた須磨に、二人は面持ちを上げた。
その表情には、翳りは無い。絶望も、まさかとは思うが、絶望が避けて通っているようだった。
「いい加減にしてくれよ! 何とかなる。いや、何とかする。絶対だ」
―某さんは何と言っていた?
「今までに何人の人間が犠牲になった!? なぜ地球を取り戻そうと思った!? あんたらの覚悟はその程度のものだったのか!?」
―ああ、出来るとも。某さん、見てろ。あなたがこの事態を予測して俺を残したのかは知らないが、成功させてやるとも。
「敵がそれを完成させる前に、撃つ。それ以外に方法は無い。だから、」
―…夢見がちだって、構わない。
「まだ、諦めないで下さい」
―その夢が実現する事を信じれば、出来る。


「これが私たちの母戦艦“悠久”。内部を見るのは初めてだろう?」
「はい」
小奇麗な空間。宇宙をも仰視出来ると思うと、須磨の心は躍った。
だが、
「ダメですね。損傷部分が果てし無く多すぎます。どうしましょうか…」
「エネルギー・プラントからその部分にエネルギーを回す事は出来ませんか?」
「集中させて、もたせるのだな。後はどうにかなる、と」
「はい」
須磨の提案に、苦笑をもって返した冬木野は、母戦艦のメイン・コンピューターを華麗ともいえる捌きで操っていた。
それを眺める須磨に、DXが一言。
「君のような人間に会うのは初めてだ」
「…」
「私たちはほとんどが現実主義過ぎるのかもしれん。前例主義でもあり、また計算高い。君のような―そう、気合と根性が無いのかもしれない」
「そう、ですか」
何と答えていいか判らない須磨は、とりあえず相槌を打つ。
「君ならば出来るだろう。両翼を頼んだ」
「え―? いきなり両翼ですか? それは…」
「大抵の操縦なら、平均的に出来ると聞いている。頭部は―」
「全く、君たちで奥の手は隠密に決行かな?」


その声も、一週間ぶりに聞く。
どこか懐かしさを帯びるのは、時が経ったせいもあるが、声に力がこもっているからだろう。
「ろっど!」
「よう、須磨。それから、DXに冬木野もご無沙汰だね」
「…路次。某たちが―」
言おうとしたところを遮り、ろっどはにやりと笑った。
「生きてるはずさ。僕の知っている某はそういう男だから。それで、頭部の操縦に困っていると聞いたが、僕が引きうけよう」
「だ、…大丈夫なのか?」
須磨が思わず敬語の調子を続けそうになったところを、友人の不自然さから、あえて戻す。
すると、ろっどは満面の笑みを浮かべて、
「怖いよ。だけど、某たちの危機とあらば、駆けつけないとね。これ以上、僕の親友が死ぬのはご免だから。それに、」
すっ、と色眼鏡をかけ、ろっどは散らばる工具を手際よく集め始めた。
「須磨が出来る事なのに、僕が出来ないはずは、無い」
燃え盛る瞳で、ろっどは母戦艦の修復を開始した。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第259号
ページ番号
3 / 6
この作品について
タイトル
プラネット・レジスタンス
作者
ろっど(ロッド,DoorAurar)
初回掲載
週刊チャオ第259号