序章 其ノ三

「ではこちらでおまちください」と肩身狭そうにコソコソと退出していったあの男性。まぁ無理もない、この格好では威厳の欠片も感じ取れない、もう少しあのおっさんが歳をとってたら俺くらいの子どもだっているかもしれないからな・・・と考えながらも男は深々とソファーにもたれる。本革を使った高級ソファーとの触れ合いは目的が来るまでの空白な時間を退屈させなかった。

 「遅くなってすみません。あの猛吹雪を・・・大変でしたでしょう?」
「あぁ。えっと・・・」
「岡田です」
「どうも 俺は・・・」
「・・・・あぁ、コードネームで結構ですよ」
「AIRって事で」
軽く互いに自己紹介を終えるとしばし沈黙が流れる。ここの管理者は男 AIRの想像する成金親父のイメージそのものだった。小太りした真ん丸い体にややハゲかかった頭髪、茶色いスーツも随分親父臭い色に思えた。何より左腕の丁度スーツからはみ出ている金色の腕時計がそれに拍車をかけていた。とにかくこの岡田という中年男性の第一印象はAIRにとって最悪なものであった。
「ところでAIRさん、本日はどのような目的で?」
「目的はここじゃないんだけど、食料も尽きたし何よりあのブリザードがね」
「そうでしたか!そういうことならすぐにでもご用意できます」
「後・・・宿の方も頼みたいんだけど・・・」
「えぇ、そちらもすぐに手配できます」
「さっすが♪」
とりあえずこちらの要求はすんなり通してもらえた。これで連日続いたかまくら生活ともおさらばだし、まともな食料にもありつけるし、さすが楽園と言うだけあるなと感心するAIR。一通り言い終えたので次に盗られた相棒を取り返そうと思っていた時である。ドアのノブがひとりでに動いた事にBALLは気づく。

 「失礼します」
そう言って入ってきた時最初は秘書かと思っていた。こういう時美人のお姉さんが出てくるのがパターン。AIRのイメージでもあり実際に体験した中でもそうだったのだが今回は予想が見事に外れた。
童顔だが整った容姿を持つ少女、背は中学二年生位の平均だろうか?とにかく小さくて可愛らしいというのが正直な印象だった。栗色の髪は染めているわけではなく純粋に生まれつき。かるく肩を過ぎて長いものは腰まで伸びているその髪は触らなくてもサラサラであることはわかる。瞳も綺麗な髪と同じ色であった。服装も白を基調とした服に所々青色を使っているのだが彼女にピッタリだ。そして何よりも両手につけた真っ白な手袋が彼女の印象をより清楚にしている。ロリコンってこういうのが好きなのだろうか?とAIRに疑問が浮かんだ。彼はそういうのがタイプでは無いので結局考えるのはそこでやめてしまった。
手慣れた手付きでコーヒーをコースターの上に敷いて俺へと差し出す。インスタントではなく豆を轢いて作った本格物だった。ミルクとシュガーを渡される
 
 「ところで・・・俺のチャオをかえしてほしいんだけど。」
「わかりました。」
管理者がポケットの中に手を突っ込み何らかの動作をした。AIRには何をどうしたのか明確にわからなかったがポケットで手を動かすという事は見られたくないことなのだろうか? AIRに気にする暇も与えないうちに扉は開いた。入ってきた男の両手にはAIRのパートナーであるチャオが抱きかかえられていた。
手の中でおとなしくしていたチャオだがAIRを見つけると抱きかかえる手を振り切りパートナーの胸元に飛び込んでいく。その様子に驚き目を丸めていたのが先ほどの少女であった。しかし彼女の疑問もその場の感動的な再会を前にしては誰にも気づかれなかった。
「もうすこしでおまえの事忘れて帰りそうだったよ」
「! ぅ~!」
「ちょっと暴れんなって・・・」
 感動の再会もものの数秒で崩れ去った、これに唖然としている間に彼女の質問タイムはまたも遠ざけられる事になる。次のハプニングはさきほどAIR達が倒した獣が再び目を覚まし暴れだした事であった。
机の上を駆け巡り、椅子もソファーも散らかす、壁や絨毯には鋭い爪あと。
まだ上手く身体を動かせずただ暴れまわっているだけだが威嚇目的には充分、特に先ほどまでAIRの向かい側に座っていた岡田は慌てふためきながら床を這いつきまわっていた。
「た・・助けて!」
「きゃあああ!!」

獣が反撃の牙をむき出せたのもごくわずかな時だけだった。
外の時と変わらず、またもAIRの手によって黙らせられる。こんな事をいとも簡単にやってのけた彼は何者なのだろうか?と小さな秘書の頭の中は彼の事でいっぱいであった。しかし・・・
「なんかめちゃくちゃ腹が減ってるから飯でも食いたいんだけど」
「そうですか、私の行きつけのお店なら最優先で料理を堪能できますが・・・」
「あぁ、じゃあそれをよろしく」
「わかりました、では参りましょう。 秘書さん、後は頼みますよ」
その事が相手に伝わる事もなく二人は外へと歩いていった。室内に残ったものは手当ても出ない残業だけであった。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第296号
ページ番号
3 / 4
この作品について
タイトル
PEACE PIECE
作者
キナコ
初回掲載
週刊チャオ第293号
最終掲載
週刊チャオ第296号
連載期間
約22日