第5話
ぱらだいす・アイランド~余命三日の冒険記~第5話
3人は、泉にかけより、黄金に輝く木苺の実を、ぼぅっとみていた。
....その木苺は、まるで、見た者をひきよせて、捕食してしまおうとするような気配があった。
でもそんなこと考えている場合じゃない。
せっかくここまできたのだ。そんな気配だけであきらめるもんか。
ペッツは、頭の中だけでそんなことを考えながら、木苺の木に近づいていった。
ヴィンとルーベルも、あとへつづいた。
ペッツは、そのときに泉に飛び込んだ。
「おわっ、ナニ、この水....」
ペッツがおぼれそうになりながら言った。
この泉の深さならおぼれるような心配はなかった。
だが、驚くほど透明で、軽く跳ね上がれそうな泉の水は、見た目に反して、重く、どろりとしていた。
「おいおい、大丈夫かよ...」
ヴィンとルーベルも泉に入り、ペッツを助け起こした。
そしてそのまま3人は木苺の木へ近寄った。
「さ、ペッツ、あたしらの上に乗りな。ホラ、届くでしょ?」
ルーベルとヴィンはペッツを自分達の上にのせて、黄金の木の実に手が届くようにした。
「うん....あとちょっと....もうすこし.....!」
ペッツが2人の上から黄金の木の実に向けて飛び上がり、黄金の木の実にしがみついて、体重でその木の実をブチッと取った。
「わぁっっ!?」
ペッツはそのまま後へ宙からのけぞり、泉にものすごい音を立てて落ちてしまった。
「あわわ....あれ....?....うわぁ!」
ペッツは、何の前触れもなしに、泉に飲み込まれてしまった。
「ペッツ!?おい!!」
取り残された二人は、泉にもぐり、ペッツの姿を探した。
だが、あるのは光を映し出した水ばかりで、ほかにはなにもなかった。
ペッツは、なにもない、真っ暗な無の空間でもがいていた。
上へ、上へと行こうとするが、どんどん闇はペッツを引きずり下ろしていく。
その時、救いの手が差し伸べられた──黄金の木の実が、ペッツの手中に現れたのである。
─この木の実を食べれば、転生できる。もしかしたら、ここで死なずに、またあそこに戻れるかもしれない─
ペッツは、目を閉じ、大きく息を吸って、ガブリと木の実にかじりついた。
無の空間が、光にみちていく。
闇が、逃げるように消えていく─ペッツは、コレで上手くいったと思った。
雲の浮かぶ、青い空が見える。
もうすぐ、2人と、また会える。
さぁ、もうすぐだ。
これで、転生できたんだ....
─ずっと目を閉じていたペッツは、まぶたの先に光が見えたとき、目を開いた。
とっさにヴィンとルーベルをさがしたが、あるのは青空に浮かぶ雲だけ....ペッツは宙に浮いていた。
上を見ても、下を見ても、何もない。
同じ青空が広がるだけ....
─あなたは、この一生を、楽しく過ごしたのですか?─
青空の奥から、響きのある、なんともいえないような声が聞こえてきた。
ペッツは、その問いに、大きな声で答えた。
「はい、ボクは、友達と遊んだり、おいしい木の実を食べたりして、とっても楽しかったです!」
─あなたは、冒険は好きですか?この島での冒険は、楽しかったのですか?─
また、声が返ってきた。
ペッツは、また大きな声で、
「はい、3人で協力したり、いろんな....どうぶつかなぁ....とか、チャオに会ったり、おいしい木の実が食べれたりして、とっても楽しかったです!」
─じゃあ、この空間は、気に入りましたか?ずっと、ここで夢を見たまま、幸せになりたいですか?─
この問いだけはすぐに答えられず、ペッツは、考え込んだ。考えて、考えて、どのくらい経っただろう。
もう、10年も考えたかと思っても、正直な空は、紅くも黒くもならず、ずっと青いままだった。
ペッツの心の中で、もやもやした物があった。
そのもやもやは、やがて、少しずつ丸くなり、小さくなりつつあった。
その力は、ペッツの、とある希望や欲望によるものだった。
ペッツは、そのちからで、もやもやを丸くしようと、なぜか一生懸命になっていた。
でも、そのもやもやからできた玉は、いまにも拡散して、はじけてしまいそうだった。
ペッツは、もうさっさとはじけて、楽になりたいと思いつつも、早くヴィンとルーベルにあって、またもとの世界へ戻りたいという思いで、丸くしようとしていた......
─もやもやが、完全に丸くなった。でも、やっぱりまだはじけてしまいそうだ。とどめをささなきゃ。固定しなきゃ。それにはどうしたら......─
ペッツは、ふいに、たんたんと自分の言いたいことをいってしまう、ヴィンとルーベルの姿を思い出した。
そんな2人は、ある意味、ペッツの憧れでもあった。
─言いたいことがあるんだろ?言っちゃえよ。─
─何が言いたいのさ。さっさといいな。ぜったい後悔はしないと思うよ?─
いつもペッツにそう言い聞かせていた二人の声が聞こえた。
そして、ペッツは、決心した。
「ボク、決めました!」