第4話「チャオクラブ集合」
俺とラスの事件簿 第4話「チャオクラブ集合」
「確かあの信号を左折ですよね」
「うん。いつも悪いな、里香さん」
「あらたまって、嫌ですわ。お役に立ててなによりです」
今俺はとラスは、家政婦さんの里香さんの車でS区の健のマンションに向かっていた。
健の家は学校から一番近く、それぞれの沿線の最寄駅から徒歩10分なんで、クラブで集合するときは、いつも健のマンションを利用している。
俺は後部座席のラスを見た。
ラスは久しぶりのドライブに少し興奮しているようだ。
上機嫌で
「くるまー♪、おでかけー♪」
と歌って?はしゃいでいる。
特にラスはこの里香さんのこのワゴンがお気に入りで、(うちのBMより)大きな羽を存分に広げて後部座席をくるくる回り、我が物顔で占拠している。
「ぼっちゃま、ラスならたっぷりお昼ねもしましたし、夕食もしっかり食べました。体調はとてもいいみたいですよ」
「んー、あんまり夜更かしさせたくないんだけど。帰りは遅くなるかもしれないな」
待ち合わせは18時ジャストに変更した。
いつもより集合時間早いんで、みんなが間に合って来てくれるかわからない。
健のマンションが見えてきた。
健の家は不動産屋で、ここの7階の最上階に住んでいる、屋上にはチャオ専用プール、地下は半分駐車場、半分が私設ジムだ。つまり親がめちゃ健に甘く、健の頼みならまず断らない。
俺も自由にさせてもらっているが、ここまでやり放題じゃないぜ。
ま、おかげでいろいろ助かるが。
里香さんがマンションのエントラスの前に車を止めた。
へぇー。
予想はしていたが、なんと4人全員そろって待っていた。
いつもルーズな純でさえ・・だ。まだ5分も早いてのに。
あっという間に後部座席はむさい連中で一杯になった。
ラスはちょいと不機嫌?
そーか、ラスにはちゃんと説明してないから、いつものように健のカメハメや他の部員のチャオ達と遊べると思ってたんだな。
俺はラスを抱っこしながら、やさしく頭をなでてやった。
「オスッ!里香さん、お世話になりますっ!やっぱハイエースワゴンはいいっすね~広くて、シートがどっしりしてて!」
健は里香さんがお気に入りだ。
つーか、まさか女なら誰でも??いやいやそれは幼馴染に失言だな。
里香さんは25歳で既婚者だが、子供はいない。俺と血の繋がりはないが亡くなった母の親戚にあたる人だ。
と、純が口を開けた。
「功、いいから早く説明しろよ。なんだい?チャオ誘拐事件のことで後藤有紀から頼まれたっていうのは?」
「俺も詳しくわからない。とにかく駅のロータリーに有紀がいるはずだから・・・」
ん?殺気?
「てめーー!!いつから呼び捨ての仲になってんだーーーー!!」
いきなり背後から健の締め技くらわされた~。
「あっ、先輩!あれ後藤さんじゃ、ないですか?」
ほっ。英二に救われた。
俺達全員はロータリーの一角に降りて、有紀と合流した。
ここからはラッシュタイムだし、徒歩の方が速く高木邸に着く。
「里香さん、ありがとう。帰りは親父にでも迎えにきてもらうよ」
「はい、ぼっちゃま。また明日。みなさんもごきげんよう」
ワゴンを見送ると、有紀があの笑顔で話しだした。
「チャオクラブのみなさん、初めまして。後藤有紀です。堅苦しいの嫌いなんで、有紀って呼んでください」
野郎共の顔がいっせいに緩んだ。
「はははっ!オレ様は2組の勝浦健だ!オレのことも健でヨロシク!」
「僕は同じく2組の横山純。記者クラブの部長なんで、今度取材させてほしいな」
「初めまして。僕は内田博。僕のことはヒロって呼んでよ。ちなみに5組」
「ぼ、僕は1年1組の安藤英二です!よろしくお願いします!せ、先輩なんで有紀さんでもいいですか?」
「きゃっ!かわいい~!あなたがラスね~♪」
突然、有紀が黄色い声をあげた。
俺が抱きかかえるラスの頬に、有紀は鼻をこすりあわせてきた。
ラスも嬉しそうに返事。
「ゆき、すき!」
お前も俺と好みが同じだったとは・・・。
有紀はじーっとラスを見つめた。
「ホントにしゃべってる・・・すごい・・・」
初めてラスのおしゃべりを聞いた奴はみんな驚くよな。
俺も最初は耳を疑ったぜ。
子供から大人に1次進化したばかりの時だ。
「こう」
かすかにそう聞こえた。
俺は空耳と思いつつ、ラスに聞いた。
「今、『こう』って言った?」
「うん、こうー!」
今度はハッキリ聞こえる!!
俺は慌てて親父を呼んで、それから福永先生に電話して。
でも前例はあるそうだ。めずらしいことはめずらしいが、ラスの3代前の親も言葉を片言話したという。
そのチャオは今転生を繰り返して中国にいるそうで、詳しいことはわからなかったが。
こうしてひととおりの挨拶が終わると、すぐ有紀と俺を先頭に高木邸に向かった。
案内する有紀の顔はさっきと違い、思いつめてて無言だ。
俺は歩きながらいろいろ聞きたかったが、そんなふいんきではなかった。
長い塀が続く先に、テレビで見た高木邸の門が見えた