第3話「約束の放課後」

俺とラスの事件簿 第3話「約束の放課後」


六月になったばかりの太陽は、日が落ちるのがやたら遅く感じる。
西日は強くなったが、少しひんやりする風はさわやかで、じとつく梅雨はまだ先か。

誰もいなくなったガランとした教室で、俺は読みかけのSF小説を読んでいた。
正確には読んでいるフリ。
頭の中は廊下の足音に神経を集中している状態だ。

・・・来たか。

静かにドアが開いて、待ち合わせの相手が入ってきた。

俺はまずホッとした。

・・・よかった、いたずらじゃ、なくて。

「お待たせ」

後藤は笑顔でそういうと、足取りも軽く俺の隣に座った。

「いや・・・で、用は何?」

俺はわざとそっけなく言った。実は緊張して、余計な言葉が出てこないだけなのだが。

「まずはお礼を言わせて。
今日は急に呼び出したのに、来てくれてありがとう。・・・ちゃんと自己紹介するわね!」

「?」

「私、リリーよ」

!!?? リリーって、まさか・・・あのリリー?

「高柳君は、サイレンスでしょ?」

俺は驚きのあまり、絶句した!
彼女が、公式チャオBBSの常連のリリーとは!!

「ふふふ。私も驚いたわ。日本に帰ってきて、編入したクラスにあのサイレンスさんがいたなんて・・・」

「な、なんでわかった? 俺がサイレンスだと・・・?」

俺はやっと口がきけた。

「日本に帰ってきて、すぐオフ会があったのよ。その時あなたの本名とか教えてもらって、ピンときたの」

先月GWに開催された、関東地区オフ会か、俺がたまたま欠席した・・。
成る程、そっちからメアドも聞いたのか。

「この学内でチャオクラブの部長だし、愛チャオはナイツのラス。それに同姓同名同学年。これは間違いないってね!」

はぁー、驚いた・・・。俺はやっと冷静になれた。

「後藤さんがリリーとはねぇ、こんな偶然もあるんだな」

「そうね、私達、ラッキーよね~。まあまあイメージ通りの人でよかったわ。2年来の付き合いなんだし、これからは有紀って呼んでよ。ね?功!」

あいかわらず大胆だなぁ。アメリカナイズとゆーか。そっちはイメージ以上だよ。

「ゆ、有紀のヒーローオヨギのナスカは、不調だったけど、元気かい?」

「おかげ様で。初の飛行機の長旅と、時差でまいったみたい。今はすっかり元気よ・・・って、つもる話はたくさんあるんだけど、今それどころじゃ、ないの!大変なことになってるの!!」

「!?」

「昨日の事件、知ってるでしょ?あのアクアマリンの・・」

「ああ」

「あの被害にあった高木 豊君は、私のいとこなの!母の妹、涼子叔母様の1人息子で・・・」

「えええ!!??」

これまた衝撃的な。マジかよ。

「それで、功にお願いがあるの・・・」

「俺に?まさかあのチャオを探すの手伝ってほしいとか?こういうことは警察にまかせた方が・・・」

「ダメなの!警察じゃ・・・功のラスでないと、ダメなのよ!」

はあ?ラス??

「ラスのような『言葉を話せるチャオ』じゃないと・・・!」

!! そーか。わかったぞ。そういうことか。

「お願い!ラスを連れて、私と涼子叔母様の家へ一緒に来てほしいの!今から、すぐに!!」

彼女は大きな瞳をにじませて、それこそ必死になって訴えていた。
俺には断る理由なんて、皆無だ。

「わかった。できるかぎり力になるよ」

ただし、条件をつけた。
チャオクラブのメンバーも同行すること。
秘密は守る、信用できる奴らだし、俺1人より心強い。

後藤は、少しためらったが、キッパリ言った。

「いいわ!今はラスが必要だもの。どんな条件でものむわ」

・・・俺はおまけなわけね。

ま、いいや、すぐにあいつらに変更メールだ。
あいつら、間違いなく喜んで全員くるだろーな。
こんな大事件にかかわるってのがレアってのもあるが、なんせ噂の美少女、後藤がらみだもんな~。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第118号
ページ番号
4 / 9
この作品について
タイトル
俺とラスの事件簿
作者
ピース
初回掲載
週刊チャオ第117号
最終掲載
週刊チャオ第119号
連載期間
約15日