第5話「不可思議な屋敷」
第5話 「不可思議な屋敷」
有紀は何故か塀寄りに左に曲がった。
「まだ警察とか、報道の人がいるみたいだから、裏門から入るようにいわれてるの」
ふーむ。よっぽど秘密にしたいんだな。
まぁ、普通は子供がでしゃばる場面じゃないか。
裏門は確かに小さい木の戸だったが、ちゃんと監視カメラもついてるし、鍵も電子ロックされていた。
これだけ厳重なセキュリティだ。犯人はやはりプロか?
有紀が画像付インターホンのボタンを押す。
「叔母様、有紀です」
すると、電子ロック解除の音がした。
「みんな、静かに入ってね」
小声で有紀がささやいた。
俺達は黙ってうなずき、有紀の後に続いた。
健だけ、額がぶつかった。
「いてっ」
「気をつけろよ、お前巨体なんだからさ」
「へへ、すまん、すまん」
なんだかコソコソと、泥棒の気分だ。
裏門からしばらく日本庭園風の竹の道を行くと、大きな瓦屋根の純和風な屋敷があった。
だがところどころに金の彫り物があり、いかにも成り上がりの悪趣味さが勿体無い。
よっぽど悪いことしてなきゃ、こんな金持ちになれねーか。
これは俺の偏見である。
裏の出入り口には、中年の着物を着た女性がたたずんでいた。
有紀が何か口に出す前に、その女性は人差し指を口にあてて、無言で俺達を制すると、中に入るよう手招きした。
屋敷の中はすぐ横に台所があり、廊下をさらに進み、その女性は一番離れの部屋のドアをノックした。
「豊様、涼子でございます。有紀様がいらして下さいました」
ほう?この人が涼子さん・・・。息子のことを様付けで呼ぶのか?なんだかややこしそうな屋敷だな。
ドアが開いた。
あのテレビ録画のスタジオで一度見たきりだが、確かに同一人物だ。
まだ中学生、小6あたりか?155センチぐらいの背たけ。眼鏡をかけて青白い顔。だが目つきはするどく、秀才なのをかんじさせた。
「待ってたよ、有紀さん!早く入ってよ!」
有紀に続き俺達もドヤドヤとこいつの部屋らしき部屋に入った。
たく、子供部屋に20畳も必要かよー。
ベッド、勉強机、本棚、アップル社のパソコン。
割と普通のサッパリした部屋だが、明らかに違うのはあのアクアマリンのミズチャオの写真が額に入れて壁一面に飾ってあることだ。金の額だが。
「君はもういいよ、早くあのうるさくて馬鹿な連中に帰ってもらってよ!」
「は、はい。これで失礼いたします」
涼子さんは、手をついてお辞儀をすると、静かに部屋を出て行った。
ゆがんだ性格か?コイツ。
だが、このチャオのかわいがりといい、ゆがんだ奴がニュートラルの水チャオに育成できるとは思えないしな。
なにより有紀のいとこだし。
どーも単純でない構造のようだ、この屋敷の人間達は。
有紀もこの変わった親子のやりとりに複雑な面持ちでいるようだった。
「やあ!ラスだー!また会ったね」
急に子供らしい顔つきになって、高木豊が俺を見た。
「ね、さわってもいい?」
「いいよ」
ラスはちょっと警戒しているようだが、豊になでなでされると、にこにこ笑い出した。
単純な奴・・。
だが、ラスのおかげで変に冷たい場のふいんきが穏やかになった。
「かわいいなぁ、それにすごく大きな羽だよね~。僕ピュアチャオ育てたことないから、本当にこんな紫に色が変わるんだー」
うっ。嫌味かよ。
俺達チャオクラブ全員そう思ったに違いない。(モチロン、全員ピュア)
まぁ、2歳で完全な二次進化体はちょいとめずらしいかもな。
ラスが日本一頭のいいチャオに選ばれたのには、言葉を話すだけが理由じゃ、ない。
血統も見た目も育成過程も多少審査対象になっていたのだ。
俺達チャオクラブでも二次進化完成してるのは健のオニチャオと、純のノーマルノーマルだけ。
純のはもう5歳だからそろそろ転生か。
ヒロのミズチャオと、英二のソニチャはまだ完全体になっていない。
「こう、このひと だれ?」
ラスが俺と豊を交互に見て言った。
「わぁ!スタジオでも驚いたけど、こうして間近で話してるとこみると、やっば、驚くよ!
僕は高木豊。ゆ・た・か だよ。ラスにお願いがあるんだ」
豊はラスの両手をぎゅっと握ってラスの顔をのぞきこんだ。
「僕のユートピアを探すの、助けてほしいんだ!ユートピアは、ユートピアは・・・」
俺は次の言葉に耳を疑った。
「家出しちゃったんだ!!」
豊はそう言うとラスを抱きしめて泣き出した。
続く。