~遺された黒いギター~
ただね、僕は悲しかったんだ。
こんなセンチメンタルな気分でも思い出してしまうんだ。
沢山のチャオ達。響いているギターの音。歌声。
黒いギターを持った黒くて怖そうな、でも、心は温かい。
僕の・・・お父さん。
「ねぇ!そのギターはいつくれるの?」
自分は、そんな質問をしてみる。
お父さんは一度一度録音テープのように言った。
「これはね。いつかおまえが大きくなったときに一緒な。」
約束・・・してくれたはずだったよね?
・・・お父さんは急に倒れた。
母親、妹はただただおどおどして落ち着いていなかった。
いや。自分が冷静すぎたのかな。
「奥さん。あなたのお父さんは、黒膜系神経塔癌です。」
難しくて、あの時はよく分からなかった。
要するに、お父さんはぽよの癌にかかってしまい・・・
そして、絶対に転生をすることがないんだ。
「お父さん・・・」
一応、お父さんはぽよを半分切った。
お父さんは、何もかもが失われたような顔をしていた。
「帰ってくれないか?」
お父さんは、自分に向かってそういった。
でも自分に顔を向けていることはなかったのだった。
お父さんがみているもの・・・夕日に輝くギターだった。
そして、その目から出るものでそれをぬらしていた。
「なぁ。これからキャンプに行かないか?」
退院した父はそうして自分たち家族を誘った。
でも、自分はそれが「一時」と言うことを知っていた。
星空輝く空の下。
お父さんはこんな話をしてくれた。
「俺は・・・昔は、ギターなんておもちゃかと思ってたんだ。
だって、誰でも慣れれば音を簡単に出すことが出来る。
でもな・・・俺はこの黒いギターでそれを吹き飛ばした。
それだけの、力がこいつにはあったんだろうな。
自分はそれから必死に練習したよ。
たまに学校もさぼって先生やらによく怒られた。
ある時なぁ、俺はプロになりたいと思ったんだ。
もちろん、いろんなやつから反対されたさ。
黒いギター、それが俺のゆういつの仲間。
こいつといれば何でもやれると思った。そして、成功した。
でも、病気には勝てないんだなぁ。
俺はギターと別れるときが来たんだなぁ。
なぁ、ギター。おまえはいったい次は誰と組みたい?」
哀れみも入るようなそのかすれ声に自分は涙した。
そして・・・運命の日。
「お父さん!無理だよ!」
妹が必死に引き留める。
でも、お父さんはそれを突き放した。
「いや、最後に絶対行くんだ!」
お父さんは、今日コンサートの日だった。
どうしても出たかった。
そして、家族は廊下に出て、外に出ようとする父を・・・
黙ってみていたのだった。
廊下にギターが落ちる音が響いたのはすぐ後のことだった。
そして、ベットに戻された父は、
二度と目を開けることなく繭に包まれたのだった。
なぁ、お父さん。
どうして、大切にしていた黒いギターを遺して死ぬんだ?
僕たちをおいてどうして死んじゃったの?
「一緒に弾こう・・・」あの約束、どうして破ったの?
俺もギターも孤独だよ?
ねぇ・・・
もちろん回答は返らなかった。
永延と自分の泣き声が聞こえていただけだった。
輝いていた父の後ろ姿。
それとともに輝く黒いギター。
もう、二度と戻らないその光景を思い浮かべ、
又泣くことを再発させていた、幼少の自分だった。