その3
【ONLINE DREAMS その3】
しばしの沈黙の後、グライフがぽつりとつぶやいた。
【グライフ】「純粋すぎる想いは裏返って悪になる、か・・・」
やがて、2人がゆっくりと語りだす。それはコミュニケーションロビーをゆったりと流れる小川のように。
【メリッサ】「人間性の違い、なのかな・・・流行りに流されることが悪い訳じゃないし。」
【グライフ】「それにネトゲはコミュニケーションが肝だ。仲のいいフレ(=フレンド)がそっちに行ったから、とみんなで行っちゃうこともある。」
【メリッサ】「イクスさんにとっては目の前で『チャオを辞める』ところを見せられる訳だから、余計・・・」
【グライフ】「今日は久しぶりだし色々やろうと思ったんだが・・・悪いな。俺のせいでこんなんになっちまって。」
【メリッサ】「いえいえ、とんでもないです。むしろ戻ってきてくれて嬉しいです。
・・・イクスさんもきっと、心の中ではそう思ってるはずですし。」
【グライフ】「だといいがな・・・ま、今日は落ちとくわ。お疲れ様。」
【メリッサ】「お疲れ様でした。」
・・・やがて、2人の姿も消えた。誰もいなくなったコミュニケーションロビーは、再び静寂に包まれた。
それから、イクスもとうとう姿を見せなくなり、そのまま1週間が過ぎた。
【メリッサ】「あの人のことですから、昔のゲームでチャオを育ててるのかも・・・」
【グライフ】「オフラインに篭れば、ただチャオだけを見ていれば済む・・・か。」
その時、二人が考えたことは、同じだった。
【メリッサ】「でもそれは・・・本当に幸せなの・・・?」
【グライフ】「それが本当の幸せかどうかは・・・分からんな。」
【グライフ】「・・・普通にかぶったなw」
【メリッサ】「な、なんかごめんなさい・・・w」
しばらくの間をおいて、再びメリッサが。
【メリッサ】「私はよく分からないですけど・・・オンラインゲームになるって、チャオにとっても、本当に幸せなことだったんでしょうか?
あのままオフラインのみのキャラで居続ければ、運営がどうとかで批判に曝されることもなく、イクスさんみたいな辛い目に遭う人も減って・・・」
【グライフ】「どうだろうな・・・ソニックチームにでも聞いてみるか?
ってのは冗談として、1つ言えるのは・・・もう戻れない、ってことじゃねぇのか?」
【メリッサ】「そうですね・・・」
・・・このまま、月日だけが過ぎていくと思われた。
が、この翌日、とんでもない事態が、彼らの目の前にのしかかる。
『その日』、公式ホームページに、このような文章が掲載されたのだ。
===
『【重要】「CHAO ONLINE」ネットワークサービス終了についてのお知らせ』
平素より弊社「CHAO ONLINE」のネットワークサービスをご利用いただき、誠にありがとうございます。
このたび、201X年9月30日24時をもちまして、「CHAO ONLINE」のネットワークサービスを終了させていただくことを決定いたしました。
長らくの間「CHAO ONLINE」のネットワークサービスを続けて来られましたのは、皆様の暖かいご支援があったからこそと、スタッフ一同、心より厚く御礼を申しあげます。
現在もご利用いただいております皆様にはご不便、ご迷惑をおかけいたしますが、何卒ご理解いただけますよう、どうぞよろしくお願いいたします。
===
この一報を聞いた2人は、当然チャオオンラインに駆け込んだ。この時、6月末。残り3ヶ月。
【メリッサ】「チャオオンラインが・・・」
【グライフ】「終わっちまう・・・!!」
だが相変わらず、イクスの姿は見えない。
カードを交換した相手であれば、その相手の居場所(チャオガーデンか、コミュニケーションロビーか、ミニゲーム中かなど)が分かるようになっているのだが、そもそもオンラインになっていない。
【メリッサ】「いずれは来ると分かってた・・・でも、本当に来るなんて・・・」
【グライフ】「全てのものに始まりがあれば終わりがある・・・それだけなんだがな・・・」
突然の終焉予告。
チャオオンラインは、異様な雰囲気に包まれた。
数少ないプレイヤーがざわめくようにコミュニケーションロビーを駆け抜ける。
【メリッサ】「接続人数も、明らかに増えてる・・・!」
【グライフ】「そりゃそうだろ・・・このゲームにオフは無ぇんだ・・・」
チャオオンラインのデータは、ゲームサーバー上に保存され、オフラインでチャオを育てることはできない。これは不正防止の意味合いが強い。
つまり、サービスの終了、それは彼らのチャオ全てが電子の海へと消えてしまうことを意味する。
久しぶりに見る名前もいくつかある。その様子をコミュニケーションロビーの中央で見ている2人。
【グライフ】「色んなネトゲやってきたが・・・これだけリアルなのは初めてかもな・・・」
そして、次の瞬間。
【メリッサ】「あ、イクスだ!」
コミュニケーションロビーに、1週間と1日振りにイクスの姿が現れた。そこに向かう2人。
イクスもそれに気づいたのか、2人の方を見る。
・・・そして、開口一番(といっても吹き出しであるが)、
【イクス】「ちくしょおおおっ!!!!」
そう、叫んだ。
<続く>