その2
【ONLINE DREAMS その2】
チャオガーデンに、ゆっくりとした時間が流れる。
基本的にはソニアド時代と同じで、プレイヤーがチャオガーデンに居ない限りは時間が進まない。
『浅く、広く』よりは『狭く、深い』コミュニケーションを目指したゲームだ。
・・・そこに、人影が現れた。
他人のチャオガーデンには、その人の「カード」、簡単に言えば名刺を持っていないと入れない。
カードはコミュニケーションロビーで直接会うことで交換することができる。
つまり、少なくともイクスのカードを持っている人、ということになる。そして人が少なくなった今、ここに入る人間はメリッサを含めて数人しかいない。
・・・が、そこに現れた人は、イクスの予想を裏切った。
【イクス】「グライフ・・・さん・・・!?」
【メリッサ】「ウソ・・・!?」
そこには、既に『引退』したはずの、グライフの姿があった。
彼は印象的ないわゆる「おじさんキャラ」であり、2人の先輩的存在だ。
メリッサも初心者の頃に彼に色々教えてもらったという。
【グライフ】「よう、久しぶりだな。ちょっと戻りたい気分だったので戻ってきたぜ。」
【イクス】「お、お久しぶりです・・・!!」
一礼をする。こういうアクションもすることができる。
【グライフ】「何の話をしてたんだ?」
【メリッサ】「チャオ・オンライン以前の、チャオの歴史についての話です。署名とかね・・・」
【グライフ】「ああ、それか。」
そんな中でも、チャオガーデンのチャオ達は気ままに遊んでいる。
【イクス】「あ、そろそろ木の実あげる時間だな・・・ちょっと食べさせてきます。」
【メリッサ】「はいよー。」
するとイクスはガーデンのヤシの木のところへ走っていった。ただし、会話は聞こえる。
【メリッサ】「そういえば・・・グライフさんはどうしてるんですか?」
【グライフ】「今は別のネトゲやってんだ・・・エターナルギャラクシーっての。」
【メリッサ】「え、あれやってるんですか!?」
エターナルギャラクシー。この時代、最も有名なオンラインゲームの1つである。
その独特な世界観と斬新なシステムが人気を呼び、マスコミにも取り上げられた程だ。イクスやメリッサも名前は聞いたことがある。
【グライフ】「ああ。昔からネトゲやってる俺としたことが、完全にハマっちまってな。
正直、しばらくは戻れそうにないぜ・・・」
【メリッサ】「やっぱり、面白いんですか?」
【グライフ】「まぁな・・・よくできてるとは思うぜ。何より運営が安定してる。」
ネットゲームは、発売したらそれで終わり、ではない。「サーバーの運営」を行う必要がある。そして、これが一番重要。
例えば、バグを見つけたら修正する、新しい要素を定期的に配信する、不正行為を取り締まる、などなど・・・
・・・と、言うだけなら簡単であるが、実際にはとても難しい。
バグ修正が困難だったり、不正行為がいたちごっこだったりすると、途端に運営が難しくなる。
ゲームの出来がよくても、運営に失敗してしまい、人が減る・・・そんな経緯を辿ったネットゲームは過去に数え切れない。
エターナルギャラクシーが人気な理由も、ここにあるのだ。
【メリッサ】「なるほどね・・・」
【グライフ】「俺もこれからはたまには来るだろうけど、あっちメインだろうなぁ。」
そう2人が話していた時、突然イクスがエサやりを止めた。まだ全員に木の実を食べさせていないのに、である。
【イクス】「・・・・・」
【メリッサ】「イクス、どうしたの?」
【イクス】「何がエターナルギャラクシーだよ・・・何が運営がいいだよ・・・何が世界観がいいだよ・・・
みんなみんな・・・他に面白いネトゲが出たらあっさりと離れてく・・・そんなのおかしいよ!!」
突然のことに、メリッサもグライフも何も言えない。
【イクス】「発売直後はみんな『チャオかわいい!』って言ってたのに!『ずっと育てたい』って言ってたのに!!
『サービス終了までいるかもしれんw』とか言ってた奴も!結局誰も残ってないじゃないか!!!」
しばらく、チャオガーデンに沈黙が走る。
その後、グライフがこう言った。
【グライフ】「・・・じゃああれか?
おまいさんみたいに最初から最後まで同じゲームを続ける人が正義で、コロコロ遊ぶゲームを変える人が悪か?」
【イクス】「・・・そうじゃないよ・・・でも、悔しいんだ・・・折角チャオのかわいさをみんなに分かってもらえたと思えたのに・・・」
そのまま、イクスの姿が消えた。そう、『落ちた』。
それと同時に、メリッサとグライフは、コミュニケーションロビーに戻った。というより、放り出された。
イタズラ防止のため、チャオガーデンの主がログアウトすると、そこにいた他の人は自動的にコミュニケーションロビーに戻る仕様なのである。
<続く>