その1

【ONLINE DREAMS その1】


少年はつぶやいた。
【少年】「はぁ、今日も人がまばらだなぁ・・・しょうがないか。」
少年、といっても、チャオ・オンライン上での話である。
実際には40過ぎのオタクかも知れないし、あるいは女性なのかも知れない。だが、この世界でそれは意味を成さない。
この世界では、自分から喋ったりオフ会でも開かない限りは、サーバー上で見える姿が「全て」なのだ。

ユーザー名、イクス。
彼は今、コミュニケーションロビーの中央にいる。

基本的にブリーダーはチャオガーデンかプライベートルーム(自分の部屋)で過ごすが、交流のために巨大なホールのようなものが設置されている。それが、コミュニケーションロビー。
チャオガーデンやプライベートルームに同時に入れるプレイヤーの数には制限があるので、多人数でのチャットをする場合などに利用されていた。
・・・が、人が少なくなった今では使われることはほとんどない。たまに移動する人を見かけるくらいである。

発売直後はここに人が溢れ、見ず知らずのプレイヤーとのチャットが盛り上がったものだ。
などと昔を思いながら、ロビーを歩く。

彼はチャオ・オンライン以前からのチャオファン。
人が少なくなった今でもここにいる理由は、チャオが好きだから。それしかない。だけど、それで十分。


【イクス】「さてと、それじゃ今日も稼ぐかな、っと。」
と、リング集めのゲームに向かった。

普通のゲームであれば、1人で出来れば十分だが、ここはオンラインゲーム。それではつまらないし、意味がない。
複数人でミニゲームに挑戦した方がリングや小動物などを集めやすくなってるのだ。

・・・が、やる相手がいなければ同じことであるが。


リング集めなどのゲームも、バリエーションがそこそこ多いのでまだ楽しめるが、アクションが苦手な人でも稼げるようにするために難易度は低く、マンネリ化している。
既に新しくミニゲームが配信されることも無くなった。

残り少ないこの世界に住む者、誰もが感じていたこと。『いよいよ、チャオオンラインも末期か―――』


イクスは慣れた動きでゲームをクリアし、リングを稼ぐ。
数分後、ゲームが終了し、彼はコミュニケーションロビーに戻った。

するとそこには、今では数少ないイクスの友人、メリッサがいた。
赤い帽子とロングテールが印象的な女性キャラクター。いわゆる「中の人」は問題にしてはいけない。

【メリッサ】「こんばんは~」
【イクス】「お、こんばんはー。」

人が減り末期になったオンラインゲームに於いて、友人が1人でも残っている、というのは奇跡的なことである。
友人が皆いなくなり、一人になって飽きて止めてしまう・・・オンラインゲームから「引退」するケースとして、よくある話の1つである。

かくいうイクスだって、メリッサがいなければ今はやってたかどうか分からない。
チャオの進化や色の遺伝の法則などは基本的にソニアド2バトルのそれを継承しているので、結局はソニアド2バトルをやればいいという話になる。

人と人がつながるから、オンラインゲームなのだ。


【メリッサ】「そういえば、あのチャオどうなったの?」
【イクス】「あー、無事全ステータスLv99。見てみる?」
【メリッサ】「いいの?それじゃ、お邪魔しますー。」

そう言って、2人はコミュニケーションロビーからイクスのチャオガーデンへと移動した。


【メリッサ】「おーっ、ちゃんと二次進化もしてるー。」
【イクス】「まだ完全じゃないけどねー。」
【メリッサ】「レースとかはもう出したの?」
【イクス】「まだ。今からやるつもりだけどね。」
こんな感じで、そのチャオの前でチャットする2人。
他にも、何匹ものチャオが、2人のまわりで遊んでいる。


【メリッサ】「そういえば、チャオって確か、最初はソニックシリーズの付属キャラだったんでしょ?」
【イクス】「うん。ソニックのキャラでリングや小動物やカオドラを集めて、チャオを育てる。
      一番最初はヒーローやダークの概念も無かったらしいよ。オレはその頃はまだチャオは知らなかったけどね。」
【メリッサ】「へー、最初はニュートラルだけだったんだ?」
【イクス】「うん。その後、いくつかソフトが出たんだけど、それから何年もチャオが育てられるソフトが出なくてね。
      確か、ソニックシリーズにちょこっと顔を出すだけだったのかな?」
【メリッサ】「それって・・・『過去のキャラクター』ってことじゃないの?」
【イクス】「たぶんそうだったんだと思う。当時のソニックチームにとって、チャオは『過去のキャラクター』に過ぎなかった・・・
      だけど、一部のチャオファンが、それを許さなかった。」
【メリッサ】「それが、あの署名活動・・・」

チャオがまだあまり有名でない時代、そしてもう10年近く前の話。
署名活動は、『伝説』として語り継がれていた。
いわば、このゲームを『創った』活動なのだから―――

【イクス】「その答えが、このゲーム・・・チャオ・オンライン。」
【メリッサ】「なるほどねー。」

<続く>

このページについて
掲載号
週刊チャオ第301号&チャオ生誕9周年記念号
ページ番号
2 / 6
この作品について
タイトル
"ONLINE DREAMS"
作者
ホップスター
初回掲載
週刊チャオ第301号&チャオ生誕9周年記念号