第11話 正体
「私はあなたと一緒にはなりません」
金棒を構えます。
「そう、残念」
母は表情を変えません。
変わらない、のかもしれません。
「でもあなたが持っている私の欠片、それは返してもらうわね」
母の下半身の尾が一本伸びてきます。
相性が悪いと思いました。
金棒を振り回しても、絡みつかれ奪われかねないと思ったのです。
そこにアシトが来ました。
彼は鮮やかに伸びてきた尾を切り落としました。
母は顔色を変えず、尾を今度は何本も伸ばしてきます。
さらに母の手にはカード。
チャオも取り込んでいたのでしょう。
キャプチャすると、何本かの尾の先端が鉄球に変化しました。
母は尾を足のように使ってジャンプすると、鉄球で私たちに殴りかかりました。
そして着地すると鳥の足となっている両腕で逆立ちをして、こつこつと前進しながら鉄球を振り回します。
アシトも私も後退して避けるしかありませんでした。
「鉄球、打ち返してくれよ」
「こんな時に冗談言わないでよ」
「本気だっての」
本気なのかよ、と思いました。
でも丁度鉄球の尾が一本だけ向かってきていました。
それを冗談半分で、思い切り金棒で打ちました。
すると鉄球は母の方へ低く飛び、顔面にぶつかりました。
勢いそのままに鉄球は母の後方へ行き、母はバランスを崩して倒れ、屋上に上がってきたお兄様とラシユにぶつかりそうになります。
「危ねえな!」
ラシユが母に向かって叫びます。
危ないことをしたのは私でしたが。
母は跳ね起きるように羽ばたきました。
そして空に逃れようとしたのを、お兄様が射ます。
矢が次々と翼に刺さり、母は落ちます。
母が立ち上がると、体から翼が外れました。
さらにカードをキャプチャして、両腕が剣に変わります。
お兄様は距離を取りながら、休むことなく射続けます。
母は尾で矢を受けますが、いくつかは背中に刺さりました。
矢は貫通して、胸から矢の先端が出ています。
その負傷に少しも動きを制限される様子なく、母は私に向かってきます。
そんなにもカードが欲しいのか。
だとすれば、私が囮に徹すればいいということです。
「私から離れた方がいいよ」
アシトにそう教えます。
しかしアシトは私から離れないで、
「なんでだよ」と聞いてきました。
「私の持ってるカード狙ってる!」
「ああ、あれか。真実の愛」
「そう!」
母は伸ばした尾で屋根の端を掴み、手繰るようにして大きく左右に動きながら接近してきます。
アシトはその尾を一本切断しながら、母とすれ違います。
別の尾はお兄様によって射止められ、母の動きが一瞬鈍ります。
また別の尾を伸ばそうとしますが、それをアシトが切ります。
母はアシトに目を向けました。
彼を排除しないと、思うように動けないと思ったみたいでした。
鉄球の尾がゆっくり動き出しました。
しかしラシユがとどめを刺すために飛んできていました。
ラシユはカードを二枚キャプチャします。
するとマグマが母に向かって噴射されます。
母はマグマの激しい流れに押されて、屋根から落ちました。
ラシユはしばらく噴射を続けました。
それでも母の体はまだ残っていました。
胴体と頭だけになり、身動きは取れないようでした。
ラシユに水を出してもらって地面を冷やし、私は屋根から飛び降りました。
残ったそれを叩き潰すためです。
着地すると、まだ冷え切っていない地面が熱く、驚かされます。
マグマというのはとてつもなく高温であったようです。
「ヘネト」
母は、自分の体の損傷が少しもないかのような、ごく普通の穏やかな声を出しました。
「私よりも深く陰に染まってしまったチャオがいます。その子は陰と同一の存在となりつつあります。私のようにその子のことも助けてあげてください。その子はあなたもよく知っているチャオです。昔逃げ出してしまった、エクロです」
私は金棒を振り下ろし、母を潰しました。
最期の言葉が、自分を取り戻した母の言葉だったのか、陰の僕として私を陰に誘うための罠なのか、私には判別できませんでした。
それでも、かつて私の親友だったエクロが陰になってしまっているのなら、私の手で陰を滅ぼしたいと思いました。